雨声~形のないラブレター

スタッフ同士、下の名前で呼び合うのがこの店の暗黙のルールみたいなものらしい。

健さん、清さん、和子さん。
和気藹々とした雰囲気だからなのか、紫陽花はすぐに打ち解けることができた。

「オーダーする際にメニューを指差ししたさかい、実椿と同じような感じかな思てるんやけど、こったらっかりはね」

紫陽花の背後に立った健一郎から話を聞く。

連日のように来店して、全く同じものをオーダーしているらしい。
けれど、実椿と同じように補聴器をしているわけではないから、勘違いかもしれないと健一郎は言う。

「あっ、和子さん、そろそろ時間です」
「はーい」

パートの和子は18時までの勤務。
最終電車は23時台だが、21時を回るとぱたりと利用者が減るため、カフェの営業時間は21時まで。
紫陽花は閉店までバイト予定になっていて、帰りは健一郎が自宅まで送ってくれることになっている。

「降り出してきたっぽいな」
「え?」
「傘持ってる人が増えたやん」
「……あぁ」
「天気予報で夜に降り出すって言うとったさかい」

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