雨声~形のないラブレター

接客商売だと天候は売り上げに直結する。
3日前に梅雨入りして、今日も朝からずっと曇天だったから。

大通りに面している飲食店だと雨天の場合、客足が遠のくが、コンコース内のカフェは逆に客が増える傾向にある。
雨宿りとして、濡れた服を乾かす意味合いでも。

健一郎は事務所の中から足拭きマット(玄関マットの吸収率の高いもの)を店舗入り口に敷いた。

「清~、ホット(メニュー)な」
「了~解」

夕食の時間帯というのもあって、軽く食事をして行く人も増えるらしい。
清さんは慌ただしく調理器具をセッティングし始めた。



「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「オリジナル珈琲とエクレアを1つお願いします」
「エクレアセットのオリジナル珈琲で宜しいでしょうか?」
「セットがあるんですか?!じゃあ、それでお願いします」
「少々お待ち下さい」

ビジネスマン風の男性。
ビジネスバッグを手にして、お店に駆け込んで来た。
三つ揃えのスーツがびしょ濡れで、鞄の中からノートパソコンを取り出し、壊れていないか確かめ始めた。

「オーダー入ります。エクレアセットオリジナル(ワン)
「エクセットオリジナル1、了解」

オーダーの略語をまだ完璧に覚えきれてない紫陽花。
健一郎が復唱した言葉を聞き取り、ハッとした。

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