雨声~形のないラブレター

「エクセットでしたね」
「間違いとちがうさかい気にしな」

自家焙煎の珈琲をハンドドリップで淹れる健一郎。
キッチンではエクレアセット(フルーツ添え)を清が用意している。

すると、続々と入店を知らせるメロディが鳴る。
人感センサーが稼働し、可愛らしいメロディが鳴るのだ。

「いらっしゃいませ、お席へご案内致します」

健一郎が言っていた通り、急に混雑し出した。
すると、窓際の席に座っていた青年がレジの前にやって来た。

「レジお願いします」
「紫陽花ちゃん、ごめん。これ3番テーブルに」
「はい」

まだレジの打ち方を教わっていない紫陽花はレジを健一郎に任せ、トレイの上に置かれたエクセット(オリジナル珈琲)をお客様の下へと運ぶ。

「お待たせ致しました。エクレアセットのオリジナル珈琲です。ごゆっくりどうぞ」
「5番のチキドリ(チキンドリア)お願いしまーす」
「はーい」

キッチンから提供を促す声がかかる。
紫陽花は急いで配膳口に用意された料理をトレイに乗せ、オーダーシートにレ点を入れる。

平日だからスタッフは3人。
普段なら3人でも回るけれど、さすがに満席に近い状態では、バイト初日の紫陽花にはきつい。

メニューをまだ全部覚えていなくて、ひやひやしながら接客しているのだ。

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