極上の彼女と最愛の彼 Vol.2 〜Special episode〜
『これ以上あなたに話すことなんて何もないわ。さよなら』

冷たく相手役の男性に言い放ち、スッと背を向けて立ち去るハル。

小さくなるその背中を、男性は呆然と見送る。

すると颯爽と歩いていたハルが、クキッと足をくじいてよろめいた。
真顔で見つめていた男優も、思わずズコッとなる。

カット!の合図のあと、一斉に笑い声が上がった。

「おーい、ハルちゃーん」
「ごめんなさい!」

眉をハの字に下げ、両手を合わせてハルが謝る。

「シリアスないい演技だったのにな。スタスタスタ、コケッ!みたいなオチ」

監督らしき人の言葉に、あはは!とまた笑いが起こる。
そのVTRを見ながら、倉木も思わず笑みをもらした。

その次は、愛する人を想って涙する難しいシーン。
ハルは、彼が出て行った部屋で一人、静かに涙を流す。

切ない表情をアップで捉え、倉木も思わずハルの演技に引き込まれた時だった。

グルグルグルグルー…

割り込んできた音に、なんだ?と思っていると、ハルが気まずそうに困った顔になる。

「カットー!」
「おーい、ハルちゃーん!」
「ごめんなさい!」

またもやハルが両手を合わせて謝る。

「さっき、天丼ガッツリ食べてたよな?あれは幻か?」

冷やかしの言葉に、ハルのお腹が鳴ったのだと分かる。

「もうワンテイク、泣ける?」
「大丈夫です!今のこの残念な気持ちを思い出せば、泣けます!」

あはは!と、ハルの言葉にまた笑い声が上がった。

(へえ、谷崎さんってこんなに天真爛漫な子だったんだ)

倉木は自然と微笑みながら、モニターを見つめる。

次のシーンもシリアスで、彼の手を振り解きながら「もう嫌!これ以上傷つきたくないの!」と走り去るはずが、セリフを噛みまくってしまう。

「傷ちゅきたくないの!」
「きじゅつきたくないの!」
「きじゅちゅきたく…え?何が本当なの?」
最後には「これいぞう…傷ちゅ、もう傷ついちゃった」とこぼす始末。

「おーい、ハルちゃーん。傷ついちゃった、って愚痴はちゃんと言えたのに」
「あはは!惜しい、そっちじゃない!」
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