極上の彼女と最愛の彼 Vol.2 〜Special episode〜
「ダメだ」

ポツリと呟いた透に、由良が、ん?と首を傾げる。

「なあに?透さん」
「ダメだ。由良ちゃんは、ダメ」
「え?ダメって、何が?」
「由良ちゃんは、他の子達とは違う。表と裏の顔なんて使い分けてない。いつだって純粋で真っ直ぐで、優しくて明るい子なんだ。由良ちゃんには、いつも笑顔でいて欲しい。これ以上傷ついたり、寂しい思いはして欲しくない」

透さん…と、由良が呟く。

「ありがとう、透さん。その言葉だけで充分嬉しいです」

そう言って柔らかく笑う由良に、透は胸が締めつけられた。

「どうしてこんなに可愛い子が、辛い思いをしなくちゃいけないの?どうしてこんなに心の綺麗な由良ちゃんが、変な男に最低なセリフを言われなきゃいけないの?おかしいよ。納得いかない」

憮然とする透の顔を、由良が覗き込む。

「透さん?なんだか、駄々こねてる子どもみたい」

ふふっと笑う由良を、堪らず透は抱きしめた。

「え、透さん?」

由良が戸惑った声で呟くが、構わず透は更にギュッと由良を抱きしめた。

「本当は辛いことたくさんあるのに、いつも笑顔でがんばってるんでしょ?本当は夢とか憧れとか大事にしたいのに、仕方ないって押し留めてるんでしょ?君のことを何も知らない男が君を平気で傷つけても、明るく振る舞って笑い話にしようとしてるんでしょ?」
「…透さん」
「本当は泣きたいのに、泣いて誰かに受け止めて欲しいのに、我慢して笑ってるんでしょ?今も平気なフリしてるけど、本当は思い切り泣きたいんでしょ?」

由良の瞳が涙で潤む。

「由良ちゃん、俺が君を受け止める。君の寂しさや辛さ、心細さ、全部残らず受け止めるから。俺の前なら泣いていいんだよ?」

耳元で囁かれ、由良は一気に涙を溢れさせた。

「うわーん、透さん。私、私ね」
「うん」
「本当は誰かにギュッて抱きしめて欲しかったの」
「うん」
「遊びでつき合って、なんて言われて、悲しくて悔しくて…。でも、そんなふうに言われるのは、私のせいなんだろうなって自分を責めてたの」
「違うよ。由良ちゃんのことを何一つ分かってない、最低な男のセリフだ。君が気にすることなんて何もない」
「たくさん悩んで傷ついて、でも私の大切な瞳子さんや千秋さんの前では、笑ってごまかしてたの」
「心配かけたくなかったんだよね?」
「うん。誰にも相談せずに、気持ちを仕舞い込んでた。それでも私は大丈夫って思ってたの。私はそんなに弱くないからって」
「大丈夫な訳ないよ。それなのに、ずっと一人でがんばってたんだよね」

ポロポロと涙をこぼしながら話す由良の髪を、透は優しくなでる。

「由良ちゃん。これからは、遊びでつき合って、なんて酷いことを言われたら、こう答えて。本気で愛してくれる人としかつき合えないって。それから、ブライダルモデルも。由良ちゃんは、自分の本当の結婚式で、たった一度のウェディングドレスを着て、たった一人の愛する人とキスをするんだ。分かった?」

すると由良は、拗ねたような表情で透を見上げた。

「透さん、理想と現実は違うよ?そんな夢見たって、叶わなかったら余計に悲しいだけだもん」
「理想は現実になるよ。君の夢は、俺が叶えてみせるから」

…え?と、由良は真顔になる。

「どんな時も笑顔で、辛さも一人で抱えてがんばってきた由良ちゃんを、これからは俺が守りたい。泣きたい時は、俺の腕の中で思い切り泣けばいいよ。いつだって俺は君を受け止める。そしてこの先は、由良ちゃんがいつも心からの笑顔でいられるように、俺が君を幸せにする。遊びなんかじゃない。心から君を大切にする。だから由良ちゃん、俺と本気でつき合ってください。たった一度の結婚式は、俺と一緒に挙げてください。たった一度のウェディングドレスを着て、たった一人の俺とキスして欲しい」

由良は目を見開いて、パチパチと瞬きを繰り返す。

「え、えっと?あの、透さん」
「なに?」
「それって、つき合って欲しいっていう告白なの?それとも結婚しようってプロポーズ?」
「全部」
「ぜ、全部って!そんな大事なこと、まとめ売り大セールみたいに、一緒にしないで!」

由良が抗議するが、透はケロッとしている。

「だって、全部ほんとの気持ちなんだもん」
「いや、だからって。情報過多で頭が追いつかなくて…」
「じゃあ、一つ一つ返事してくれたらいいよ」
「返事?えーっと…」
「うん、なに?」

由良は少しうつむいてから、パッと顔を上げた。

「返事は、はい!」
「それって、どれの返事?」
「全部!あれもこれも、ぜーんぶまとめて、はい!」
「ええー?なんか大ざっぱだな」
「ちょっと、透さんが大ざっぱなこと言うからでしょ?」
「あはは!そうか。じゃあ改めて。由良ちゃん、今日から俺の彼女、いや、フィアンセになってくれる?」
「…はい」
「結婚式では、俺とキスしてくれる?」
「え…。そんなこと、恥ずかしいから聞かないでよ」
「ははは!分かった。思いっ切り熱くキスするから、驚かないでね」
「はあ?もう、そのセリフだけで驚くわ」
「あはは!」

透は笑いを収めると、優しく由良に微笑む。
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