極上の彼女と最愛の彼 Vol.2 〜Special episode〜
わあ…と感嘆のため息と共に、皆の間から大きな拍手が起こる。

ハンカチを目に当てたまま、ハルはもはや、しゃくり上げるように泣き続けていた。

「ちょっと、谷崎さん?大丈夫?」

あまりの号泣ぶりに、倉木が心配そうに顔を覗き込む。

「うぐっ、はい。大丈夫、ひっく、です」
「全然大丈夫じゃないでしょ?ほら、落ち着いて」

ハルの背中を倉木がさする。

「はあ、もう私、胸が詰まって、息が…うぐっ」
「ええ?!ちょっと、おいで」

倉木はハルの腕を取ると、そっと会場の外に連れ出した。

人気のない大きな柱の影で、再びハルの顔を覗き込む。

「ほら、深呼吸して。落ち着いて」

ハルは言われた通りに、スーハーと両手を開いてラジオ体操のような深呼吸をする。

「おお、上手だね、深呼吸」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」

深呼吸を褒められて真面目に頭を下げるハルに、倉木も真顔になる。

「それにしても、君ってそんなに感激屋さんだったんだね」
「え?いえ、あの。私、こういう仕事してるから、自由に恋愛出来なくて…。だから今日の瞳子ちゃん見てたら、もうあまりに素敵すぎて、まるでおとぎの国のプリンセスみたいに憧れちゃいました」
「そっか。世間では憧れの存在の谷崎さんなのに、実際はごく普通の女の子なんだね。いや、普通よりも涙もろい女の子、かな?」
「お恥ずかしいです。あの、倉木さん。ハンカチをありがとうございました。って、あ!ぐしょぐしょ…」
「あはは!そりゃ、あれだけ号泣すればそうなるでしょ」
「すみません!新しいものを買ってお返ししますので」
「いいよ、そんなの。気にしないで」

そう言うと倉木は、ハルの手からハンカチを取ろうとする。

思わずハルは取られまいと、ギュッとハンカチを握りしめた。

「いえ、あの。本当にそうさせてください。でないと私の気が済みません」
「そんな、いいのに。でもそこまで言うなら、お言葉に甘えてもいいかな?」
「はい!もちろんです。必ずお返しします。えっと、では次に私が倉木さんのテレビ局に仕事で行く時に、直接お渡ししてもいいですか?」
「ああ、そうだね。連絡くれれば、控え室に顔出すよ」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「じゃあ、これ。俺の連絡先」

倉木がジャケットの内ポケットから取り出した名刺を、ハルは両手でうやうやしく受け取る。

名前の上に社名や肩書はなく、メールアドレスも会社のものではなかった。

携帯電話の番号の他に、メッセージアプリのアカウントも載っている。

(ひゃあ!これってもしかして、プライベートの連絡先?)

まじまじと見つめていると、そろそろ会場に戻ろうと言われて、ハルは大事に名刺をパーティーバッグにしまった。
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