甘々とロマンス中毒
ぼんやり思考を巡らせても、簡単に答えは降りてこない。

持ち上げたグラスの重みがこれ以上軽くならないよう、お行儀が悪いけどストローをぐるぐるかき混ぜ、ちびちびアイスココアを飲み続ける。

と、あやちゃんの視線がテーブル上のスマホへ向けられ……今だっ!


「(既読スルー。(あいつ)、絶対仕組んだだろ)」

「あのっ!あやちゃん」

「なに?」

低く掠れた声がふわりと上がる。落ちた視線が私に戻って、甘やかなローズマリーの香りが近づいた。

「もっと、お話したいです」

「ん。」

「連絡先……交換してくれませんか」

「いーよ」

「(いい…の?)」


ぽかんと口を開けて、固まる私に「貸してみ」と、掌が差し伸べられる。手を重ねそうになったけど、慌てて引っ込めた。あやちゃんは、そんな私を見て肩を揺らしながら、笑みを溢す。

違うよ、あやちゃんが欲しいのは私のスマホ。

両手で握りしめたスマホを渡し、ロックを解除するパスも教えた。預けたスマホは手元に返るのが早かった。

覗き込んだ画面に映るIDは《aya_snow》

メッセージが届いた。

《よろしく》


「もう、菖のスマホ使わなくて済むよ」


密度の高い睫毛が暖色の光を集めて、宝石のように煌めいた。その周りを囲む黒曜の双眸に吸い込まれる。

よろしくお願いします、の丸い文字が、うさぎのキャラクターの頭上に描かれているスタンプをあやちゃんに送って。

「ありがとうございます。一咲便、いつでも呼んでください」

既読の付いたトークルームを見つめた。
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