甘々とロマンス中毒
熱が頬の一点に集中する。「一咲」呼ばれた声色の、柔和な丸みに導かれた。俯いてた瞳が、あやちゃんをなぞる。


「いつまで敬語で話すの?」

「え。……と、ずっと……?(の、つもりだけど)」

「俺たち幼なじみなんだからさ、気遣わなくていいよ」


ことさら優しく言うので、胸がきゅっと疼く。私は、だけど、と告げそうになって口籠る。喉の奥で言葉を呑み込んだ。

会えてない時間が長すぎて、昔の接し方を忘れてしまっているの。私たちは4つ違いだし、年上の人に敬語を使うのは自然なことで。

最後にあやちゃんと会ったの、中2のときだったよね。


「一咲が敬語だと、なんか調子狂うわ」


さっきまで余裕だったあやちゃんの表情が、むすと不満げな色をのせる。頬杖が深まってるせいなのか、下唇がちょん、と上唇を食べる。

か、かっ…かわいい〜…!

そう思ってしまう私は、ヘンな子だ。初めて目にしたあやちゃんの不機嫌な表情に、喜んでるんだもん。


「あやちゃんに会うの久しぶりで、どんな風に話せばいいのか、とか、なに話そうかなって考えてたら、敬語になってました。それに、」

あやちゃんが、かっこよくて直視できませんでした。好きな人が目の前にいて、緊張してました。

「(とは、言えないよ)」

「“それに”の続き、ほしいんですけど」

「…………。〜〜っ」

わわっ。
ドキドキしすぎて、顔が強張ってる…っ!


ほぐすように、むーと両頬を指先の力で目一杯、持ち上げた。瞑った目を開けば、あやちゃんが不思議そうに、じーっと私を眺めてるの。
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