甘々とロマンス中毒
𓂃❁⃘𓈒𓏸

顔を上げると、起きていたはずの一咲が気持ち良さそうな寝息を溢している。

さっきまで、スマホの画面とお見合いしながら、ふわふわ笑っていたはずなんだけど。しっかり寝てんじゃん。てか、爆睡してんだろ。

無防備すぎて心配だわ。さっきのだって。

———クリーム付いてる

「ちゃんと避けろよな」ため息混じりに一咲を眺めた。

小さな背中が規則正しい呼吸を繰り返す。彼女の眠りは深いらしく、起きる気配は一向にない。

このまま寝かしといてやりたいから、薄手のブランケットを肩に掛けて、一咲を抱き抱えた。俺の部屋に向かい、ベッドに寝かせる。

結んだ唇にかかっている暗いブラウン色の髪を掬いとって、そのまま髪の間に指を差し込んだ。耳の先をそっと撫でつけると、甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。

あどけなさの残る可愛い顔が、頬の真ん中だけ赤らんでいる。

どんな夢、見てんだろ。


「ンン〜〜…あやちゃ…お腹、いっぱい。ふふ」


正解は俺の夢。眩しすぎるほど、一途だ。

一咲が柔らかな掌を、俺の手の甲に重ねた。びっくりして肩が揺れるし、心臓は跳ねる。一咲の体温が俺の手を包むから困ってしまった。

ベッドの高さまで屈み、一咲を覗き込んだ。

朱色に染め上げた頬を指先で撫でて、ふにふにと触りたいが、今日はやめておく。なにかを失いそうで怖いから。


『寝顔かわいー…(すげー、赤ちゃんみたい)』


重なった手をゆっくり解いて、起きないのをいいことに、一咲の指を絡めとり、握った。

「ん〜〜むぅ…」と空気に溶ける甘やかな声。

眠り姫の露わになった耳に、悪い男は言葉をそっと落とす。


「俺みたいな欲深い男好きになって、可哀想で可愛いよ」
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