甘々とロマンス中毒
ランドセルをソファに置いて、冷蔵庫から出した麦茶を飲むあやちゃんを、こっそり観察する。

さらさらの真っ黒な髪と、同じ色をした宝石みたいな、すっと長い二重の瞳。毎日サッカーをしてるのに、あやちゃんの肌は日焼けを知らない。透き通ってるみたいに白くて柔らかそう。

声もうんと優しいし、金平糖みたい甘い。私と話してるとき、ゆっくり喋ってくれる。

私が一生懸命話してると、あやちゃんはキラキラ眩しい目を細めて、にこっと微笑む。私の心は、とくとく幸せな音を鳴らす。

それから、背の小さい私に視線を合わせて、しゃがんでお話を聞いてくれるんだ。

菖くんとお兄ちゃんとかけっこして、転んで大泣きしたときも、あやちゃんが「痛かったね、大丈夫?」って私をお姫様抱っこしてくれた。

ふわって足が浮いて、私の涙はすぐに引っ込んだんだよ。

苦手な玉ねぎを食べたら「一咲ちゃん、偉い」あやちゃんは、前髪を撫でてくれる。

玉ねぎを口に入れるとき、目を瞑って難しい顔をしてたのに、あやちゃんが褒めてくれた瞬間、笑顔になっちゃった。

あやちゃんの全部が絵本の中の王子さまみたい。


「(いつだったかなぁ)」


両手で頬杖をついて、ぽわぽわって、顔をほんのりピンク色にしながら、あやちゃんのことを話す私にママは言ったの。


「あやみくんは、一咲を笑顔にしてくれる魔法使いだね」


うん。あやちゃんは私の王子さまで、魔法使いでもある。
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