甘々とロマンス中毒
サッカーボールを抱えたあやちゃんが、私と菖くんの背中越しに立った。膝を少しだけ曲げると、人差し指を伸ばす。写真を目に留めて、私に言うの。


「隣にいるの、一咲ちゃんだね」

「ウンッ!……って、ええ〜〜っ」


あやちゃんに話しかけられて、嬉しくって勢い任せに頷いちゃったけど、菖くんの横に並んでる赤ちゃんは、一咲なんだ。

その写真の中にいる“私”は、まだ目を閉じているし、髪の毛だって長くなければ、顔はふっくら丸いのに。

首をこてん、と傾げる。

「なんでわかるの?」問いかければ、あやちゃんは、ふわりと花のように笑った。


「だって俺、一咲ちゃんのこと、赤ちゃんの頃から知ってるもん」


わ…っ。わぁあ〜〜っ。

恥ずかしいのに、嬉しくて、心がひりひりする。

私は赤ちゃんだった頃のあやちゃんを知らないのに……ズルいよ。一咲だって、赤ちゃんだったときのあやちゃんに会いたいなぁ。


ママに向かってピースサイン。「2日前のことだよ」と伝えると、ママが「一咲は“さみしい”んだね」って言うから机に伏せた顔を上げた。


「んー…ちょこっとだけ。後一回寝たらあやちゃんに会えるのに、一咲…じょうずに笑えるかなぁ」

「ママ、一咲の笑った顔、好きだから明日見たいなぁ。ほら、両手でほっぺた持ってみて?」

ママが自分のほっぺをぐいって上げる。私も真似した。ママが優しく笑うから、私もふにゃと垂れる。

「ふふ。かわいい。一咲は笑顔が一番だよ」

「ありがとー。ママもかわいい」

前髪を撫でてくれた。

「あやみくんのこと好きなんだね」

「うんっ。いつもね、いっぱい笑ってくれて、優しくて大好き」
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