甘々とロマンス中毒
私が12歳、あやちゃんが16歳の夏。
菖くんと学校から帰っていると、制服姿の王子さまと出くわした。

「あやちゃんっ」と呼びかけて、その背中に追いつきたくて、走ろうとして、手を振ろうとした瞬間、私の脳内はショートする。

……だあれ?

王子さまの隣に可愛いお姫さまがいた。


「げっ。兄貴と彼女だ」

「そ…うなんだ」


「あ、ごめん」と、気づいた菖くんが謝るから「予想はしていたので、だいじょーぶです」と、俯き加減に返事した。

手をすっと下ろして、ランドセルのベルトをきつく握ったの。唇を小さく尖らせ、目尻に溜まる涙を溢さないようにする私に、菖くんは言う。


「咲の方が、すげーかわいい。自信持て。すぐ別れるから気にしなくていいよ」


菖くんの言った通り。
しばらくすれば、ショートヘアの甘い香りがするお姉さんに変わっていて、冬には、また違うお姉さんが彼女だった。

みんな「大好き」とか「ずっと一緒にいようね」と、甘い声であやちゃんの腕に抱きついていた。

いいなぁ。私も、あやちゃんにぎゅってしたい。

いつかの彼女は下校途中に出会った。「あやみくんの弟と妹?かわいい〜」と、私たちに視線を合わせながら、飴をくれたの。


「あの…っ。一咲…じゃなくて、私は、あやちゃんの幼なじみですっ(言っちゃった!)」

「“いさくちゃん”?お人形さんみた〜い」

「む…っ、ぅ(話通じてない!)」

「咲、騙されんな。オレらに餌付けしてるだけだかんな」


ほんとうなの?と、あやちゃんを見上げると、困った表情をされたんだっけ。
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