甘々とロマンス中毒
12歳の私に、あやちゃんの恋人だったお姉さんは屈託のない笑顔を向ける。


໒꒱·̩͙


『こんにちは、一咲ちゃん』

『は、はじめまして。一咲です。あやちゃんの幼なじみです。妹ではありません』

わぁ…綺麗な人。新しいカノジョ?一咲の名前知ってるの、どうして?

『菖は一緒じゃねえの?一咲、ひとり?』

『うん。菖くん、サッカーしてる。私はピアノ教室。最近行き始めたんだよ。今日はね、両手で弾く練習するの。ふふ』

『ピアノ習ってるの?凄いね。今度、教えてほしいな』

『あ……ぅ。ハイ』

私は恋のライバルになるはずなんだけど、お姉さんはにこにこ目を細めて笑ってるの。

『一咲、ピアノ教室ひとりで行けそう?お母さんは?』

『お兄ちゃんのバレーボール行ってて。あ!地図があるから大丈夫!公園でふうちゃんと待ち合わせもしてるよ』

『どっちが北?』

『う〜〜ん……こっち!』

ママ作成の地図を見て自信満々に指を指す。えっへんと胸を張った私に、あやちゃんは眉根を寄せた。

『あー…惜しい。北は反対側だな。ごめん、一咲のこと送ってくわ』

『うん、わかった〜。一咲ちゃん、ピアノ頑張ってね。あやみも、また明日。ばいばい』

デートを邪魔しても、不満な顔をしないお姉さんの背中を不思議に眺め、私は首を傾げた。

その後、あやちゃんの彼女は季節の節目が訪れる度に、何人も変わった。みんな優しい人。みんな“一咲ちゃんは、あやみの妹”が、共通認識であるかのように接してくれた。

思い返せば、お姉さんたちは私のことをライバルと認識してなかったんだろうな。

つまり私は、恋愛対象の“スタートライン”にすら、立ててなかったんだ。
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