甘々とロマンス中毒
硬直した一咲が、唇をきゅ…と、小さく尖らせ戸惑ってるものだから。

こんな風にしか守れなくてごめん。と、行き場のない感情を胸中で呟いた。肩に触れる指先が、より強くなる。

———ヴヴ。ヴー…

スマホの音が響く。意識を奪われた瞬間、一咲が腕の中から逃げて。

どうやら、鳴ったのは一咲のスマホらしい。「は…っ!」と、マシュマロのような甘い声が溶ける。

スマホを両手に睨めっこしていたのを止めて、お辞儀をひとつ。


「私、バイトがあるので失礼します。あやちゃん、ありがとう。…またね。お邪魔しました」


ぱたぱたと走り、バイトとやらに行った。

情けな。一番大人なの、一咲じゃん。

伊吹は無言でコンビニ袋を押し付ける。「次、飲みに行くから保管しといて」と、他所行きの笑みが白々しい。

「オレも帰るね。じゃ、あやみクン。また、明日ね」整った顔の横で、ひらりと手を振り帰った。

二人の足音が消えた頃、静まった玄関で彼女が閉ざした口を開けた。


「新しい彼女?」


その言葉の端々には、熱を持った苛立ちと、棘がある。

伊吹から受け取った袋の中身を確認する。酎ハイと缶ビールが数本入ってるのを目に留めた。


「ふーん。今度は高校生なんですね。年下は興味ない、恋愛対象じゃないって言ってたの、どこの誰ですっけ?」

「しょーもな。」

「ちゃんと隠してくださいよ。なんで、あんな普通の子、選んでるんですか。トクベツ可愛くもない平凡な子」
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