甘々とロマンス中毒
「もっと、他にいるでしょ(そうしたら…諦めがついたのに)」腹の中に溜まっていたはずの甘いものが、どろどろと濁っていく。

“仕事のパートナーとして”尊敬している。頼りにしている。

だけど、恋愛を拗らせて幼なじみのことを牽制してくるような女性は、好きでも嫌いでもない。

ただ、心底面倒くさい。

嫌味を吐き出した彼女に詰め寄った。扉に手をついて追い込むと、後退りをして、華奢な背中がぴたりとくっつく。


「一咲は、めちゃくちゃ可愛いです」

「……………」


勝ち誇っていたはずの顔が酷く歪んで、大きな猫目を覆う睫毛が、上向きになる。口を噤む彼女に冷えきった視線を投げつけた。諦めの色が瞳に浮かんで。


「お前、もう来なくていいよ」


冷たく言い放ち、ドアノブを奥へ引いたのだった。

𓂃❁⃘𓈒𓏸

《一咲に悪知恵吹き込むな》

菖に送信したメッセージは、既読だけ残して1時間以上、無視されている。

夜も深まった22時過ぎ。風呂から上がり、テーブルに置いたスマホに目をやると、ディスプレイに通知が表示された。

《どうだった?久しぶりの一咲ちゃんは》

茶化す弟の言葉に返事を考える。

一文字だけ、と…続きの二文字のひらがなに指を添えたところで、電話が鳴った。意識がそれる。一咲からだ。

桜咲の制服を着た女の子と、仲良く頬をくっつけて笑う一咲のアイコンが、画面の真ん中を占領する。

隣は…こころちゃん、て子か。多分。高校に入って、初めてできた友達だと教えてくれた。

ワンコールで「はい」と出ると『あやちゃん…!こんばんは』と柔らかな声が、鼓膜に吹き込まれた。
< 36 / 100 >

この作品をシェア

pagetop