甘々とロマンス中毒
無意識に口角が綻ぶが、一拍置いてはっとなり、すぐ仏頂面を顔に飾って唇の端を結び直した。俺の緩んだ顔なんて、一咲に見られてないのに。

———一咲が寝落ちするまで付き合うよ

自分から言っておいて、何面食らってんだよ。

胸中で愚痴っぽく溢した。返事に窮してしまう俺に、何も知らない一咲は『今日ね』と言う。「うん。なに?」と、語尾を柔らかにして尋ねた。


『菖くんにご飯作ってお渡しするバイトも行ってたの』

「掛け持ちしてんだ?」

『うん』

「一咲は働き者だな。菖に時給上げてもらいなね」

ふふと笑う甘やかな声が、鼓膜を滑る。

『ラーメン替え玉券ばっかりくれるから、枚数増やしてもらうね』

「なにそれ」

『学校の近くに、ラーメン屋さんがあるの。菖くん、よく行ってるよ。私もこの間、こころちゃんと行って来た』

パソコンの画面でマップを開いて調べてみる。一咲が言う通り、桜咲高校の近くにラーメン屋がある。

アイコンをクリックして、客が投稿した写真を眺めた。

「へえ、美味そう。俺のときは、こんな店なかったわ。うらやましー」


「菖が好きそうだな」そう続けた後、一咲が突然「わ…。わーっ」と大きな声を発した。スマホを耳から遠ざける。

すげえ慌てようじゃん。なんかあった?

すると、画面が切り替わってビデオ通話になり、きゃあっと更に一咲が叫ぶ。

長方形のコンパクトな画面越しに、驚いた一咲と視線が重なって、その白い頬に濃い赤色が浮かぶのがわかった。
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