甘々とロマンス中毒
「一咲、こんばんは」

『こ、こんばんは(思わずボタン押しちゃった。恥ずかしいよ〜…。なんて話そう。私、部屋着だしお風呂出たばっかりで。…はっ!あやちゃんも同じなのかなぁ。首にタオル掛けてる)』

テーブルにあるスマホスタンドに、スマホを立てかけた。頬の真ん中から、じわりと赤らむ一咲の顔がはっきり見えて。

画面の向こう側、照れた様子で両頬を持ち上げ、瞬きを数回。じ…と俺を見る。

その可愛らしい仕草は、マドレーヌを持って来てくれたときにもしていた。

また、かわいいことしてんのな。と、俺も一咲の真似をした。一咲は『あやちゃんがすると、かっこいいね。へへ』と、はにかむ。


『あ。ラーメン、美味しいよ』

「今度、一緒に行く?」

『…行きたいっ、です。行く!』

「じゃあ、お互いテスト終わったらな」

『うん…っ!(デートっぽい)』


「喜んでくれんだ」ふ、と笑えば『一緒に行きたいって思ってたの』むず痒くなるほど、心のこもった言葉をくれる。なんともないフリをして「ん。ありがとうな」と、余裕な大人を演じてみせて。

この子に真っ直ぐ求められるのは、たまらなく、くすぐったい。

15分後、安心しきった顔で寝落ちした一咲に、おやすみと伝え、通話を終えた。

《一咲が熟睡してるから、ベッドに運んであげて》

一夏にLINEを送ったので風邪は引かないだろう。

《マジで寝てたわ…あやみくんエスパー?》

《そういうことにしといて》

と、だけ返す。課題を再開するが、集中力に欠けるのでやめた。まだ、腹の中に甘ったるいものが残る。

夏の夜は蒸し暑く、生温い風が窓の隙間から吹いた。
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