甘々とロマンス中毒
「お疲れ。なにしてたの?」

「んー。暇すぎて、信玄から借りてた六法全書読んでたら、眠たくなったから寝てた。政経部には難しかったよ」

じゃあ、取り込み中はなんだったんだよ。二人の会話を聞きながらツッコむが、口には出さず胸中で留める。

パソコンの画面を徐に眺めていると、伊吹が俺を覗き込んだ。鎖骨まで伸びた髪が揺れ、漂う匂いは甘ったるい女性の香水。

六法全書のくだりは、どこまでが本当なのかわからないな。

視線だけを寄越す伊吹に「…なに」と言い、キーボードから指を離した。体ごと向ける。


「この間の彼女“一咲ちゃん”なんでしょ?知り合いの知り合いの、友達の同級生だった」

人当たりの良い爽やかな笑みが目尻を下げる。

「どんな繋がりだよ。その子誰?」


何も知らず呆れた表情で呟く信玄に「ん。俺の幼なじみ」そう、伝えた。「へえ。幼なじみいたんだ」と信玄は驚く。


「一咲がどうかした?」

「インスタに投稿されてたから、あやみに報告しとかなきゃと思ってね」


右手に収めたスマホを俺の胸元に差し出す。
六法全書を、その綺麗な顔に押し当ててやろうかと思ったが、強引に押し付けるので仕方なく受け取った。


「はい、証拠。好きにしていいよ。ああ、でも画面割るのだけはやめてね。このスマホ、大切な人から貰ってて替えがきかないから」

「(…………絶対、しないけど)」


ちかちかと、目を細めてしまうほど明るいディスプレイに視線を落とした。

しょーもないこと言ってんのな、と。
ため息混じりについた悪態は前言撤回である。

———…は?一咲じゃん

そこには同級生と仲良さそうにしている一咲がいて。

つか、誰?隣の爽やかクンは。
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