甘々とロマンス中毒
愉しげに揶揄う伊吹と慌てふためく信玄の会話を横で聞きながら、更に頬杖を深める。
手に収まるスマホの画面が一咲とハーフツイン女子になった。

『一咲ちゃん髪染めてる!めっちゃかわいい🥹』
美羽(みう)もイメチェンしようかな〜』

どうやら投稿主は、自身を“ミウ”と呼ぶハーフツイン女子のようだ。

フォント加工された文字に目を細める。再び切り替わるのは四人組の写真。

緊張しているけど、少しはにかむそんな一咲を、隣の爽やかクンが視線だけで眺めている。

“むか”と、不可思議な感情に侵された。

『みんなで一泊二日の大阪旅行と海に行く約束したよ』

その一文に瞬きをする。

『一咲ちゃんと水着買ってきます🫶💓』

は…?どっちもダメだろ。

気がついたときには、人差し指一本でアカウントをブロックしていた。はっとなり、肩が上擦る。

やば、解除の方法がわかんねえ。

「…………」

何事もなかったのように、間延びした声で「伊吹クン、ありがとー…」と、スマホを返したら「なにしたの?」と、二人して口を揃えた。一部始終を見られていたらしい。

観念してこう答える。「個人情報保護」と。


「だからって、ブロックしちゃうんだ」

「うわ〜…そっかぁ」

「(言わなきゃよかった)」


にやける彼らがうざいので退席することにした。

︎︎𓂃⟡.·

人気の少ない喫煙所で紫煙をくゆらしながら、胸の奥に溜まる苦いものを煙ごと吸い込む。

化粧をして髪を染めて、ふにゃと笑う一咲が頭から離れない。それが無性に腹立たしくて、灰皿に煙草を押し付けた。


「あ゛ー……クソ」
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