甘々とロマンス中毒
他のこと、考えよう。

なるべくどうでもいいことで、頭の容量をいっぱいにしてみる。

あ〜〜〜英語の授業やだなぁ。
私の発音、片言すぎて、また菖くんにポンコツって言われる。

長いため息と共に、こてんと首を傾けた。

お兄ちゃん、今日帰って来るの早いのかな…?

最近、彼女と図書館で勉強してるんだよね。
いいなぁ、青春っぽい。

頬に小さな不満と憧れを溜め込む。俯き加減な視線を持ち上げた。

……向かい側に立ってるスーツの人、あやちゃんに似てる。

背も同じくらい。でも、あやちゃんは髪括ってないもんなぁ。

わぁ!首の後ろにタトゥーしてるんだ。

見てはいけないモノを見てしまった気がする。
……アレ?私、会ったことあるような…?

平静を保とうとしているつもりが、全然保てていない。頭の容量はいつしか、あやちゃんで満たされていた。

『一途』でも『健気』でもなく、恋の病。

くたっと項垂れたい気持ちを抑えて、睫毛を伏せる。視界の端に映るのは、三つ編みの毛先。染めたばかりのピンクブラウン。

美容院に行く何日も前からヘアカラーを考えて、明るくなった髪を、あやちゃんに見てもらいたくて、驚かせたくて、褒めてほしくて。

「(次、いつ会えるんだろう)」

…あやちゃんめ。と、結んだ唇を、ちょこんと尖らせた。

『———駅、ドアが開きます。ご注意ください』

そして、恋心に浸っていたら最寄駅に着いた。
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