甘々とロマンス中毒
伸ばし中の前髪は、アイロンでふわっと丸みを出してセンター分けをした。

こころちゃんがオススメしてくれたミストもつけてみる。髪が揺れるたび甘いシャンプーの香りが鼻先をくすぐるの。私の好きな匂い。

ピンク色のリップクリームも薄く塗って、スカートの丈はいつもより、すこーしだけ短く。

睨めっこしていたインターホンを、勢いよく押した。

よしっ!いっちゃえ…!

瞼をぎゅっと閉じる。
重たい扉の奥から「はい」と、甘さを含む低い声が鼓膜に響いた。


「……ん?」

頬が熱くなるまで5秒。

「……………」
「……………」

目が合って照れるまで3秒。

「一咲、久しぶり」

きつく結んだ唇がふにゃと緩むまで0秒。

恋の魔法が降りてくる時間はかからなかった。


「きゃ…っ」


固まる私をあやちゃんは抱き上げた。
体が宙に浮く。私はあやちゃんを見下ろして、あやちゃんは私を見上げてる。不思議な光景だ。

長い前髪の隙間を縫って、黒曜の瞳が私を射抜いた。じ…と見つめられるだけで、胸はとくとくと煩い。


「な、なあに?」

「高校入学、おめでとう」

「ありがとうございます」


あやちゃんの口角が、ふと上がる。

私が桜咲(おうさき)高校に入学して3ヶ月。
あやちゃんが一般人になって3ヶ月。

16歳、季節は夏を連れてきた。
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