甘々とロマンス中毒
わっ、いけない。考え事しすぎた…!

アナウンスに肩が跳ねる。急いでリュックを背負い立ち上がった。

「あ…(おり、降ります)」

と言わずとも、ぎゅうぎゅう挟まれるから足が自然と一歩も二歩も進む。背中を押されて息も苦しい。むぎゅ。

更に人圧がかかり、勢いよくホームに投げ出された。体が揺れて、プシュー…とドアが閉まって。


「きゃっ」

通勤通学ラッシュ。人で溢れかえる構内で盛大な前のめりを披露する寸前、誰かに腕を引っ張られた。ふわっと足が宙に浮くの。

「あっぶな」

やけに焦った声が耳元を掠める。
その人は「さく」と吐息混じりに言った。スニーカーが地面に着いたのと同時に、顔をゆっくり持ち上げた。

ぱち、ぱち。炭酸が弾けるような瞬きを二回。

彼はイヤホンを耳から外して、未だ放心状態の私に告げた。

「気をつけなよ」

こちら、ラーメン替え玉券三枚で私に買収された菖くんです。(訳:一咲便をお届けするため、スマホを拝借したり、住所を教えてもらいました)

「ありがとー、菖くん。おはよう」

「おはよ」

挨拶も手短に、菖くんが視線を別の方向に泳がせる。私も続けた。追いかけた先にいるのは、改札を通るタトゥーの男性だ。

「あの人、兄貴じゃないよ」

「後ろ姿が似てるなって思っただけで、あやちゃんじゃないのわかってるもん」

「めちゃくちゃ見てたじゃん」
< 50 / 105 >

この作品をシェア

pagetop