甘々とロマンス中毒
「咲、料理上手いから、兄貴に作って持ってけばいいじゃん」

菖くんが手に持ったお皿に視線を落とした。

本日の献立は一咲特製、明太子クリームパスタにトマトと枝豆のサラダ、パンプキンスープ。

勉強もスポーツもイマイチな私が、唯一得意なことがあるとすれば、料理だ。作るのも食べるのも好きである。

「オレの言ってること、わかった?」更に投げかけられた私は、首を縦に振った。


「あやちゃん、喜んでくれるかな」

「すげー喜ぶんじゃね。勉強忙しいから、まともな飯食ってねえはずだよ。てか、常に食ってないと思うわ」

「(そうなの?菖くん、あやちゃんには厳しいんだ)」


私の中で“いつか”がことんと落ちてきて、ゆっくり溶ける。

恋の始まりは簡単なのに、恋を進めることはむずかしい。

夜空に煌めく星を掬うのと同じで、手を伸ばせば伸ばすほど、遠いところにいっちゃうから。


「兄貴のID教えようか?」

「知りたい、けど」

「ん?」

「私から聞きたいから大丈夫だよ」


菖くんの、明るいベージュ髪に映えるブラウン色の瞳が、深い影を落とした。


「ふーん。がんば」


料理を作ってお届けする他に《連絡先を聞くこと》が新たなミッションとして付与された。

うん、頑張ろう。
< 9 / 100 >

この作品をシェア

pagetop