きっと消えない秋のせい


その日から、あたしたちの運命共同体の学校生活がスタートしたんだ。
当然、クラスのみんなはびっくりしていた。
今まであたしのことを無視し続けてきた考人が普通に話しかけていたから。
考人の友達、通谷(とおりたに)(たくみ)くんは、

「あー、おしどり夫婦、復活か」

って笑っていたけど。

「なに、あいつ」
「深瀬くん、突然、どうしたのかな?」

他のクラスメイトたちは明らかに動揺をあらわにしていたんだ。
だって、あの事故で性格が変わった人たちは、既に新たな人間関係を築いていたから。

「ま、気にするなよ、片岡」
「ふふん、大丈夫。あたしと考人はおしどり夫婦だから!」
「おしどり夫婦って言葉、最強だなー!」

ドヤ顔したあたしに、通谷くんは楽しげに笑った。

イケメンの通谷くんは普段から男の子とも女の子とも壁なく、しゃべっているし、友達も多い。
そんな絵に描いたようなモテ要素満載な人のため、女の子の黄色い声がいつも周りを取り巻いている。
それにバスケクラブは、通谷くんが入ってから絶好調。
彼はバスケクラブのエースで、女の子のファンが多いみたい。
通谷くんと仲のいいあたしは、考人と仲良し――『おしどり夫婦』だとして知れ渡っている。
だから、彼女たちの嫉妬の対象にはならなかったけど。

「結菜!」

その時、明るく呼ぶ声がした。

「なにしてんの! もうすぐお昼休みが終わっちゃうよ!」

視線を向けたら、女の子たちが教室の後ろのほうから無邪気な笑顔で呼びかけていたんだ。

「分かっているってー」

名前を呼ばれた女の子が、栗色の髪をふわふわとさせて、彼女たちのもとに向かう。
天宮(あまみや)結菜(ゆいな)
明るい性格で積極的な結菜は、そこにいるだけでぱあっとその場を華やかせる存在なんだ。
男の子からも女の子からも人気者の結菜。
あの事故で性格が変わった親友は、いつも人に囲まれている、愛されキャラになってしまったんだ。
でも、結菜は事故の影響で、それまでの記憶を失っている。

記憶喪失。

だから……だと思う。あたしを含めた――あの事故以前に交流があった人たちと関わるのを何かと避けていた。
あれからほとんど話していないから、元親友って言った方がいいのかもしれない。
どうして、結菜はこんな風に変わってしまったんだろう?
あたしはふと思う。
事故に遭う前は、友達思いで頑張り屋さんだった結菜。
でも、怖がりで、不安に呑みこまれてしまうことも多くて、何かあるとすぐ泣いていたっけ。
そして、本を読んだり、絵を描いたりという、一人でできることが好きだった。
あたしも絵を描いたりすることが好きだったので、共通の趣味でよく盛り上がったんだ。
でも、事故に遭ってからは明るい性格になり、どんどんあか抜けて可愛くなっていった。
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