きっと消えない秋のせい


お昼休みが終わると、先生が来て午後の授業が始まった。
ちらりと視線を横に動かすと、少し離れた席に座っている考人の横顔が見える。

……この距離を、さらに埋めるには。

どうしたらいいんだろうかって、ずっと考えていたんだけど。
でも、いい案なんて、そう簡単に浮かぶはずもなくて。
だけど、ぶつかっていかなきゃ、今の考人を知ることなんてできないと思うから。
彼との距離を、少しずつでいいから埋めていきたいんだもん。
……そこまで考えて、あたしは小さくため息をついた。

「なあ、片岡。今日、ずっと教科書、逆さなの、気づいてねえの?」

休み時間。次の授業の準備をしていたら、近くの席の通谷くんが声をかけてきた。

「へ?」
「ま、どうせ、考人のこと、考えてたんだろ。久しぶりに話せたんだもんな」
「ううっ……」

どうやら、今日ずっと教科書を逆さで持ってたみたい。
恥ずかしさのあまり、あたしは曖昧に笑ってごまかすしかなかった。

「……あの、あのさっ、考人!」

放課後、慌てて声をかけたあたしに、考人は目を見開いて驚いた。
夕陽に染まる教室には、賑やかなクラスメイトたちの声が響いている。

「……なに?」

考人の透き通った瞳に、あたしが映っている。
昨日までとは違い、目を逸らそうとしない。
どこまでもまっすぐなその瞳に、あたしの心が揺れたんだ。

「今度の日曜日、一緒に出かけない?」

これが、今のあたしが考えついた精一杯の案。
考人は何も言わずにあたしを見ている。

「ほら、日曜日はいいお天気になるから、絶好のお出かけ日和だしー。お父さんもお休みだしー」

……顔の温度が、急激に上がっていく。
恥ずかしさで目を逸らしそうになったけど、あたしは必死に耐えた。

「ね、ね、一緒に行こー。久しぶりに一緒に出かけよう」
「別にいいけど」

あたしの誘いに、透き通るような考人の声がそう応えた。

良かったー!

思わず、心の中でガッツポーズをする。
小さくても一歩、近づけた気がした。
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