きっと消えない秋のせい


「では、片岡さん、今日はお願いします」
「任せてください」

考人のお母さんの頼みに、お父さんが胸をどん、と叩く。

「じゃ、二人とも、気をつけて行ってらっしゃい!」 
「行ってきまーす!」
「……うん。行ってきます」

考人の家の玄関先で、手を振っている考人のお母さんに見送られながら出発する。
心が浮き立つような綺麗な景色を眺めながら。
あたしはてくてくと考人と一緒にバス停まで歩いていく。

「二人とも、元気いっぱいだな」

お父さんもやれやれと肩をすくめると、後ろからついてくる。
先程の大雨が気がかりだったのか、念のため、傘を持ってきているみたい。

「ね、ね、いいお天気になったでしょ?」
「さっきまで大雨だったけど」

あたしの言葉に、考人は率直な意見を口にした。

「何かしたんの?」
「雨が止みますように、ってお願いごとをしたから」
「……ふーん。ほんと、杏のお願いごとは無限大だな」

雨なんて降らせない。
なんていったって出だしが肝心なんだから!
バス停の屋根に入ると、あたしたちは時刻表を確認してバスを待つ。
屋根からぽたぽたと雫が落ちてくる。
乗るはずだったバスは、さっきまでの大雨の影響で遅れているみたいだ。

「今日はどこに行くわけ?」
「遊園地!」

あたしの即答に、考人は呆れたようにため息を吐いた。

「だって、これから行く遊園地にはジェットコースターがあるんだよ。ジェットコースターはぜんぶ乗りたいし、コーヒーカップとメリーゴーランドは絶対にはずせないもん」
「メリーゴーランド……」
「うん。考人も一緒に乗ろう」

あたしの言葉に、考人は複雑な表情を浮かべる。
「うん」とも「いいえ」とも言わない。
乗るべきなのか。乗らないべきなのか。
そんな微妙な均等にある、心の天秤を揺らしているみたい。

「……でも、ジェットコースターは雨でぬれてると思う」
「ええっ!?」
「朝から雨が降っていたから。少なくとも屋外のジェットコースターは動いていないはずだけど」

思わぬ事実に、あたしはうーんと思い悩む。

「じゃあ、お願いごとをして……」

言いかけたあたしの声を、考人の声が追い抜いた。

「多分、屋内のアトラクションなら、動いていると思うけど」
「屋内?」

あたしの反応に、考人は少し考えるように呼吸を挟んだ。

「……屋内のジェットコースターなら乗れると思う」
「ジェットコースター!」

あたしは思わず食いつく。
そしてまだ、バスが来ていないのに遊園地まで走り出そうとして。

「あ……」

だけど、ほとんど進まないうちに身体を後ろに引っ張られて、視界いっぱいに考人の顔が飛び込んでくる。
あたしの腕をつかむ彼の手は温かい。
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