きっと消えない秋のせい
「……杏のお願いごとを邪魔している?」

考人も驚いて周りを見渡す。
でも、視界に入る場所にはそれらしき人はいない。
ただ、雨を避けるように、『何か』がふわりと横切っただけだった。

どういうことなんだろう?

まるできつねにつままれた気分だった。

「うーん。もう一度、お願いごとをしてみようかな」
「……杏のお願いごとを邪魔するのなら、もう一度、お願いごとをしても結果は同じかもしれない」
「……確かに」

淡々とした声色で話す考人を、あたしはじっと見つめていた。

……雨音が響くバス停。

あたしの中の何かが騒ぎ出そうとしている。

「考人、ごめんね。傘はいらないって言って」
「……別に」

相変わらず、素っ気ない。
以前の考人とは違った顔がそこにある。
けれど、その声音も、今のあたしには心地よかった。

「大丈夫だ、二人とも」

お父さんは自慢げに胸を張る。

「お父さんはな、みんなの分の傘を持ってきているぞ!」
「わーい! さすが、お父さんー!」
「……ありがとうございます」

お父さんはそう言って、あたしと考人に傘を差し出してくれた。
しばらくじっと待っていると、やがて遅れていたバスがやってくる。
あたしたちは急いでバスに乗り、後ろの席に座った。

「お父さん。屋内のアトラクションは動いているかな?」
「屋内のアトラクションなら多分、大丈夫だと思うぞ」

あたしの質問に、お父さんはしっかりとそう応えてくれた。
良かった。
考人の言うとおり、屋内のアトラクションは動いているみたいだー。
あたしはえへへと満足げに笑ったんだ。
< 16 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop