きっと消えない秋のせい
「誰から?」
「それも言えない。でも――」

あたしの気持ちを察してか、考人は真剣な面持ちで言った。

「これからは杏のことを避けたりしない。真実を知られるのは怖いけど、僕はこれからも杏の傍にいたい……」

その声音に、どきっと心臓が跳ね上がる。
考人の改まった告白に、あたしは顔が赤くなるのを感じたんだ。

「ん? なんだ? 二人とも内緒話か? お父さんもまぜてほしいぞ」
「わわっ! それはダメ。あたしと考人だけの秘密の話だもんー」

見かねたお父さんが不思議そうに聞いてきたけど。
あたしはごまかすように、口元に人差し指を立てた。

「ね、ね、考人!」

あたしの視線に、考人は小さくうなずいてくれた。

レストランから出た後も、時間を惜しむようにいろいろな場所を回った。
遊園地を思う存分楽しみつくした頃には、すっかり雨は止んでいたんだ。
大雨の影響で、至るところに水たまりができている。
茜色の空が反射して映っていた。
雲が流れる夕暮れの空はいつもより澄んでいて、透明な色彩が果てしなく広がっている。

あの時、誰があたしのお願いごとを邪魔したのかは分からない。
そして、考人たちを変えたあの事故の真相はまだ、分からないままだけど……。

あたしは考人の背中を見つめる。

『僕はこれからも杏の傍にいたい……』

考人が言ってくれた言葉が、あたしの心にじわじわと染み入ってくる。
考人からもらったものは、こんなにも嬉しいのだ。
だからこそ、あたしはこのかけがえのない時間を精一杯に楽しむんだ。

「だって、あたしは考人の隣に相応しい女の子でありたいから」

新しい誓いを口にして、あたしは幸せそうに微笑んだ。
いつの間にか、空にはまるで奇跡のように虹がかかっていた。
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