きっと消えない秋のせい
*
「……あれ?」
鳴り続けている目覚まし時計を止めて、上半身を起こす。
あたしは部屋の中をゆっくりと見渡した。
どう見てもあたしの部屋だ。
夢だったみたい。
懐かしい夢。
幸せな夢の余韻が、今も甘苦しく胸を締めつけている。
あの男の子の名前は……。
思い出すのは寂しげな顔。
その表情に懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
けど、記憶は霧のようにぼやけていて、それ以上は思い出せない。
でも、ひとつだけ確信があった。
あたしにとって大切な人なんだ、と。
あの男の子は今、どうしているのかな?
また、会いたいな。
夢の続きを見ているような。
そんな不思議な感覚に、あたしの胸が複雑に高鳴った。
うーん。寝ぼけた頭のまま、身じたくを整える。
階段を上がってくる足音が聞こえた。
もう朝食ができている時間。
きっと、お母さんだと直感する。
「杏、朝よ。起きている?」
「うん。起きているよ」
部屋をノックするお母さんに、あたしはそう返事した。
「お母さん、お待たせ!」
あたしは慌てて髪を整えると、お母さんと一緒に一階のリビングに向かう。
階段を降りた先には、朝食の香りが漂っている。
「おはよう、お父さん」
「おはよう、杏。朝食は一日のパワーの源だぞ!」
「うん、分かっている」
中に入ると、元気はつらつなお父さんが既に座っていた。
あたしとお母さんも席に座って、三人で食卓を囲む。
テーブルの上にはサラダとグラタン、そしておなじみの目玉焼きを乗せたトーストが並べられている。
「いただきます。うん、美味しいー」
とろけるような味わい。
目玉焼きを乗せたトーストは、片岡家の朝食の定番のメニュー。
あたしの大好物なんだー。
「母さんの料理は世界一だな」
「ふふっ、あなた、ありがとう」
あたしのお父さんとお母さんは、今日もラブラブ。
そして、どこか抜けているおしどり夫婦だ。
「ねえ、お母さん」
「どうしたの、杏」
身を乗り出したあたしに、お母さんが不思議そうにした。
「幼稚園の時、あたしと一緒に遊んでいた男の子って覚えている?」
「考人くんでしょ」
「もう一人いたよね」
唐突な言葉に、お母さんはきょとんと首を傾げる。
「うーん。覚えていないわね。いつも杏の周りにはたくさんのお友達がいたから」
「……そっか」
あたしはがくりと肩を落とす。
不意にあの男の子の顔が浮かんできて、盛大にため息をついてしまった。
『一緒にお絵かきしよ?』
無邪気にそう言って、お絵かき帳を差し出した時のことを思い出す。
そうだ……!
あの、お絵かき帳なら!
「……あれ?」
鳴り続けている目覚まし時計を止めて、上半身を起こす。
あたしは部屋の中をゆっくりと見渡した。
どう見てもあたしの部屋だ。
夢だったみたい。
懐かしい夢。
幸せな夢の余韻が、今も甘苦しく胸を締めつけている。
あの男の子の名前は……。
思い出すのは寂しげな顔。
その表情に懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
けど、記憶は霧のようにぼやけていて、それ以上は思い出せない。
でも、ひとつだけ確信があった。
あたしにとって大切な人なんだ、と。
あの男の子は今、どうしているのかな?
また、会いたいな。
夢の続きを見ているような。
そんな不思議な感覚に、あたしの胸が複雑に高鳴った。
うーん。寝ぼけた頭のまま、身じたくを整える。
階段を上がってくる足音が聞こえた。
もう朝食ができている時間。
きっと、お母さんだと直感する。
「杏、朝よ。起きている?」
「うん。起きているよ」
部屋をノックするお母さんに、あたしはそう返事した。
「お母さん、お待たせ!」
あたしは慌てて髪を整えると、お母さんと一緒に一階のリビングに向かう。
階段を降りた先には、朝食の香りが漂っている。
「おはよう、お父さん」
「おはよう、杏。朝食は一日のパワーの源だぞ!」
「うん、分かっている」
中に入ると、元気はつらつなお父さんが既に座っていた。
あたしとお母さんも席に座って、三人で食卓を囲む。
テーブルの上にはサラダとグラタン、そしておなじみの目玉焼きを乗せたトーストが並べられている。
「いただきます。うん、美味しいー」
とろけるような味わい。
目玉焼きを乗せたトーストは、片岡家の朝食の定番のメニュー。
あたしの大好物なんだー。
「母さんの料理は世界一だな」
「ふふっ、あなた、ありがとう」
あたしのお父さんとお母さんは、今日もラブラブ。
そして、どこか抜けているおしどり夫婦だ。
「ねえ、お母さん」
「どうしたの、杏」
身を乗り出したあたしに、お母さんが不思議そうにした。
「幼稚園の時、あたしと一緒に遊んでいた男の子って覚えている?」
「考人くんでしょ」
「もう一人いたよね」
唐突な言葉に、お母さんはきょとんと首を傾げる。
「うーん。覚えていないわね。いつも杏の周りにはたくさんのお友達がいたから」
「……そっか」
あたしはがくりと肩を落とす。
不意にあの男の子の顔が浮かんできて、盛大にため息をついてしまった。
『一緒にお絵かきしよ?』
無邪気にそう言って、お絵かき帳を差し出した時のことを思い出す。
そうだ……!
あの、お絵かき帳なら!