きっと消えない秋のせい
「よし!」

重大なことに気づいたあたしは朝食を終えると、バタバタと階段を上がって部屋に戻る。

「あった!」

探しものは思ったより簡単に見つかった。
机の二段目の引き出し。幼稚園の時に使っていたお絵かき帳。
このお絵かき帳には、あたしと考人、そしてあの男の子の絵が描かれているはずだ。

「うわっ、懐かしい……」

あたしはお絵かき帳をめくる。
以前も目にしたお絵かきの数々。全部、覚えている。
綺麗なお姫様やおしゃべりする猫さん、動くカボチャに魔法使いの女の子。
全ての絵に共通しているのは、おとぎ話のように明るく弾けるような優しくて温かい世界。
見ているあたしの方が楽しくなってくる。

「あ、名前が書いてある。あたしの名前と考人の名前と……」

あたしたちの名前の下に書かれていたのは――。

「……『さくや』。あの男の子の名前はさくやくんなんだ……。あ、大変ー!」

ふと時間を見れば、そろそろ学校に登校しないといけない時間が迫っている。
あたしは慌ててお絵かき帳を引き出しの中に入れた。

「じゃ、行ってきまーす」
「杏、気をつけてね」

慌ただしく階段を駆け降りて、あたしは元気よく家を出た。
空を見上げれば、全てを吸い込んでしまいそうな澄みきった青空が広がっている。

「……杏、おはよう」
「あ、考人。おはようー」

早速、意気込んで、隣の考人の家に向かおうとするものの。
その前に、玄関先で待ち構えていた考人と出くわす。

「待っていてくれたの?」
「……先に行くとうるさそうだし」

あたしは目をきらきらさせて尋ねるけど、考人は今日も素っ気ない。
でも、今日のあたしの心の中はウキウキ気分だ。
だって、大切な思い出の品物を見つけたんだもん。

「杏、今日は嬉しそうな気がする……」

そう思っていたら、考人が不思議そうに首を傾げてきた。
どうやら嬉しい気持ちが顔に出ていたらしい。
昔からあたしのこういうところ、一番に気づいてくれる。

「ねえ、考人」
「……ん?」

怪訝な顔をする考人に、あたしは思いきって尋ねた。

「幼稚園の時、あたしたちと一緒に遊んでいた男の子って覚えている? さくやくんっていうんだけど」

しんとした。考人からの反応が聞こえてこない。
息を呑む気配が伝わるほどの沈黙だけが流れる。

あれ……?
ええ、なに!?
あたし、何か変なこと言った?

わたわたと動揺していると。

「……覚えていない」

ようやく、考人がそうつぶやくのが聞こえた。
考人はどこか思い詰めたような、強張っているような……。
そんな表情を浮かべていた。

「考人、どうかしたの?」
「……なんでもない」
「ほんとに?」
「……うん」

歯切れが悪い返事。
意表をつくような反応に、あたしの心臓が音を立てる。
まるで何かを隠しているような、よそよそしい態度。
もしかしたら、考人はさくやくんのことを覚えているのかもしれない。
考人の様子とお絵かき帳のことが気がかりだったけど。
それ以上尋ねても、考人から明確な答えが返ってくることはなかったんだ。
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