きっと消えない秋のせい


あたしたちが教室に入ると、いきなり通谷くんの声が飛んできた。

「おはよー、考人。来週の5年生クラス対抗バスケットボール大会についてのことだけど、放課後、作戦会議を開くからな!」
「……別にいいけど」

すらりと細身で背が高い通谷くんはバスケが大好きだ。
来週の体育の時間に行われる5年生クラス対抗バスケットボール大会の優勝に向けて、がぜんやる気満々なのだろう。
どのクラスも、大会に向けて、休み時間や放課後に一生懸命、練習している。
あたしたちのクラスも、休み時間や放課後に追い込みの練習をしていた。

「よお、考人」
「……おはよう」

他のクラスメイトたちも、考人に声をかけてくる。
あたしと一緒にいつもどおりの日々に過ごすうちに、戸惑っていた他のクラスメイトたちも普通に考人に話しかけるようになっていた。

「考人、聞いてくれよ! 最新作のゲーム、発売当日に速攻で買いにいったのに、もう売り切れてたんだぜ。ひどいよなー!」
「ふーん」

机に突っ伏してふてくされる通谷くんを前にしても、考人の反応は素っ気ない。
とはいえ、あの事故以来、考人と距離を置いていたクラスメイトたちさえも、わいわいと考人の周りに集まっていた。

「よ、おしどり夫婦、今日も仲がいいなー!」
「……うるさいな」
「ほら、考人。照れるな、照れるな」
「……照れてない。つーか、頭を撫でるな」

笑ってごまかす、さわやか男子たちに囲まれて。
しょうがない様子でため息をつく考人。

考人がクラスメイトたちと言い合う姿が懐かしい。

クラスメイトたちは、考人の性格が変わってからは少し距離を置いていたので、何だか不思議な感じだ。
きっと、今まで声をかけても反応がなかった考人が、以前と同じように接してくるのが嬉しいのだろう。
いつの間にか、教室は考人を中心にクラスの輪が広がっている。

「深瀬くん、ちょっといい?」

その時、結菜が考人の席の前に立つ。
クラスメイトたちと話していた考人は、結菜に気づき、驚いた顔をする。
近くの席にいたクラスメイトたちも、結菜のことを不思議そうに見ていた。

「話したいことがあるの」

そんな中、結菜は考人を連れて教室を出る。
その一連の流れにクラス中がざわついた。特にあたしは気が気ではなかった。

「考人……」

嫌な胸騒ぎがした。
鎌首をもたげる。また置いて行かれてしまったら、そんなささやきが胸をしめつける。

「待って!」

少し遅れて、あたしも教室を飛び出した。

二人はどこどこ?

ざわめく胸の中、必死に探していると、渡り廊下で話し声が聞こえてくる。
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