きっと消えない秋のせい


結局、あたしは先程のことが気になって、授業に集中できなかった。
担任の先生が淡々と授業を進めていっても、内容が一向に頭の中に入ってこない。
そんなふうに時間が過ぎ、悶々としたまま、午後の授業が終わった。
夕陽が差し込む放課後の教室。
帰りの会の後、クラスメイトたちが次々と席を立つ。

結菜はやっぱり、変わってしまった。
それが何よりも辛い。

あたしは改めて、酷な現実に心を痛める。

「結菜。今度、駅前の本屋、行こ! 『秘密のステキ女子』の最新刊が入ったんだって!」
「えー、マジでー!」

ざわめく教室の中心から、甲高い声が聞こえてくる。
瞬き一つで世界の色を変えるように、結菜の表情は様々な感情を乗せていた。
それが女の子らしくて可愛らしいと感じてしまう。

「行こ行こ、楽しみー」

結菜は仲のいい友達と楽しげに話しながら教室を出ていった。
ううっー。
今朝、あたしたちのことをあんなに冷たく突き放したのに、帰り際は呆気なく、余韻も何もない。
そんな彼女の様子を見ていると、あたしはどうにもいたたまれない気持ちになった。

結菜……。

あたしの頭の中は今も結菜のことばかりで、心がかき乱されている。
今すぐにも追いかけたい。そんな感情が先走りそうで怖くなるよ。
あたしは呼吸を挟むようにランドセルを手に取ると、一年前のことを思い出す。
あれは、あの事故が起きる前のこと——。

「よーし、これで完成!」
「うん、杏ちゃん……」

あたしと結菜の目線の先には、いつも不思議な世界に繋がっているタブレットがあった。
お絵かきアプリの画面には、あたしがタッチペンで描いたイラストが映し出されている。
あたしは休みの日、結菜と一緒にイラストを描くことが何より好きだった。
でも、なかなか思うように描くことができなくてどうしたら上達するのか、試行錯誤していたんだ。

そんなある日のことだった。
結菜は鞄からタブレットを取り出すと、あたしにそっと差し出す。
画面に表示されていたのは、心が引き込まれるような色鮮やかなイラストだった。

「うわあっ、すごいー! これ、プロのイラストレーターさんが描いたの?」
「……うん。あすかみのり先生のイラスト」

結菜は恥ずかしそうにうつむいた。 

「わたしの……憧れているイラストレーターさんなんだ……」

そう言いながら、結菜はタブレットを操作する。表示されたのはイラスト投稿サイトだ。
そこにはたくさんの美しいイラストが映し出されている。
しかも、閲覧数がどれもすごい数字だ。
結菜が憧れているプロのイラストレーターさんのイラストはどれも生き生きとしている感じがする。
何よりも楽しんで描いているのが伝わってきた。
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