きっと消えない秋のせい
「わたし、いつか……あすかみのり先生みたいな……素敵なイラストレーターになりたい」
「そっか。結菜なら、絶対になれるよ!」

結菜の決意があたしの心を温める。
秋の光の中で、蕾だった心の花がはらりと開いた。

「あたしは、お天気キャスターになりたい。そして、お天気イラストを描きたい」
「杏ちゃんなら、絶対になれるよ……」

結菜が嬉しそうにあたしの手を強く握った。あたしもそれを握り返す。
同じくらいの強さで。
きっと、同じくらいの強い気持ちで。
その手で、大切で特別な親友の存在を確かめ合ったんだ。

結菜はイラストレーターのあすかみのり先生が憧れの人で、同時にイラストを描くことが大好きだった。
憧れの先生の話をする時。
大好きなイラストを描く時。
その度にふんわりと笑う彼女の姿を、あたしはいつもまぶしそうに見つめていた。

あの頃の結菜はどこにいったんだろう……。

そう思うくらい、あたしたちはいつも一緒だった。
どんな時でも、あたしのすぐ隣には結菜がいた。
でも、あんなに近かった親友が、今は遠く離れた場所にいる。
ううん。実際はもっと厚い『透明な壁』の向こう側にいる。
果てしない遠い場所に——。
大切であればあるほど、過去を手放せない。
あたしは今でも結菜が傍にいた過去にすがりついてしまう。

「そういえば、結菜は今もイラストを描いているのかな?」

どんよりとしたあたしの気持ちとは裏腹に、窓の向こうでは秋の穏やかな風が吹き抜けていく。
ふと、窓際の席で男の子たちと話している考人の姿が目に入った。

「よっしゃー!! たとえ、他のクラスの奴らが手強くても、俺と考人のコンビネーションで最高のプレーをぶつけてやるぜー!!」

通谷くんの叫ぶ声が聞こえた。
思いっきりガッツポーズをして、身体を反り返している。
まるで、きらきらとした幸せのオーラが溢れ出しているよう。
放課後の教室。そこだけが一段明るく輝いているかのようだった。
大会に出る男の子たちがいるから、今度の5年生クラス対抗バスケットボール大会のことを話しているのかもしれない。
朝、話していた作戦会議のことかな。

「考人。ここ最近の体育の時間、本気でやっていないみたいだけどさ。たまには、本気でやってもいいんじゃねえか」
「……うるさい。巧はバスケのことなら一直線。ほんとに根っからのバスケ馬鹿だ」
「そっちこそ、うるせー!」

淡々とした口調の考人と口を尖らせた通谷くん。
二人を中心に、会話が盛り上がっているみたい。
< 27 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop