きっと消えない秋のせい
ふと、考人が以前、体育の時間にバスケをしていた時のことを思い出す。
通谷くんとのコンビネーションで相手の隙間をすり抜けるようなパスが通った途端、心が打ち震えた。
ゴール下で難しいシュートを入れる考人。
シュートが決まった時に見せた考人の弾けるような笑顔がまぶしかったっけ。
そう思っていると、考人は通谷くんたちと一緒に教室を出ようとしていた。

「考人、ま、まま待って……っ!」
「……なに?」

あたしは慌てて考人の背中に声をかける。
すると振り返った考人が、いつもの調子で応えた。

「ええと、あのね。これから、体育館に行くんでしょ。ついて行っていい? 大切な話があるの。どうしても聞きたいことがあって」

呼吸を整えたあたしは言葉ひとつひとつを丁寧に選ぶように問いかける。

「……答えられる範囲なら」

すると考人は迷うように口を動かし、そしてためらうように視線を落としたんだ。

「答えたいと思う」
「……うん。ありがとう」

いつものぶっきらぼうな言葉が、今はあたしを強くしてくれる。
あたしは歩き始めた考人の隣に並んで歩く。
教室を出ると渡り廊下を通りすぎて、体育館に向かう。
体育館をのぞくと、他のクラスの人たちが練習をしているのが目に入る。
まだ、本格的な練習は行われていない。
既に来ている人たちは、様々な練習メニューをこなしていた。
近くには先生たち。
そして、体育館の外には大会に出ない人たちが立って見守っている。
ときおり、黄色い声援が飛ぶ。

今回の5年生クラス対抗バスケットボール大会には、バスケが上手い人たちがたくさん出るみたい。
そのせいで、ちょっと盛り上がっているみたいだ。
でも、あたしは出ないので、体育館を遠巻きに眺めていた。
やがて、体育館で練習をしていた人たちが先生たちに呼ばれて集合し始める。
そろそろ、本格的な練習に入るんだろう。

「みんな、集合!」

担任の小林先生はいつも元気がいい。
熱くて、抜けていて、みんなに慕われている。

「よっしゃー!! 今日も張り切って行くぜー!!」

体操着に着替えた通谷くんたちは体育館に入り、小林先生のところへ向かう。
だけど、考人はあたしの隣で、その様子をじっと見守っている。

あれ……、あれれ?
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