きっと消えない秋のせい


大会の練習が終わった後。

「考人。大切な話、別の場所で話してもいい?」
「……別にいいけど」

あたしがそう提案したことで、校舎裏に移動することになったんだ。
なにしろ校舎裏は内緒話に適している、学校の秘密基地の一つだもんね。

「あのね、考人。どうしても聞きたいことがあるの」
「……なに?」

無表情を変えることなく、考人は静かに尋ねる。

「……お願いごとの力のことなの」
「お願いごと?」

考人の前で、あたしは強くうなずく。

「あたし、思ったの。もしかしたら、他にもあたしと同じような力を持った人がいるんじゃないかって」

あたしは核心に迫る疑問を投げかけた。

「その人がお願いごとをしたことで、考人たちは変わってしまったんじゃないかな?」

考人はポカンとしながら、あたしを見つめる。

「遊園地に行った日、あたしのお願いごとを邪魔したのも、その人かもしれない」
「ほんとに杏と同じような力を持った人がいるの?」

考人の疑問はもっともだと思う。
だって、ぜんぶ、あたしの予想だもん。

「うーん」

あたしは視線を上に向けて思案する。
でも、いくら考えても分からない。
ううん、答えなんていらないんだと思う。

「分からない。でも、あたしの勘では、きっといると思う」

そんな言葉があたしの口からこぼれていた。
そこに理由なんて必要ない。

「もしかしたら、あの事故に関わっている人。
考人たちに性格が変わってしまった理由——あの事故の『真実』を口止めしている人かもしれない」

ふと思いついたことを言ってみる。
思わぬ言葉に考人の顔が驚きに染まった。

「考人はどう思う?」
「僕も分からない。でも、その可能性はある……と思う」

何かを思い出しながら、考人は言った。

「僕たちの知らないことも知ってるような感じがしたから」
「……そっか」

あの事故の真相に繋がる答え。
出てきた答えは笑ってしまうくらい曖昧で、でも揺るぎない。
……結菜は、『あなたのせいで事実が発覚したら、とばっちりを食うのはわたしたちなんだから』と言っていたけど。
それを恐れていると思ったのは、きっと気のせいじゃない。
青を失った空が、あたしの表情に影を落とす。
夕暮れ空の淡い色を見て、なんて寂しい色なんだろうと思った。

いつか考人の口から全てを知りたいな。
その遠くを見つめる瞳も。
ひとりで抱えている過去も。
ぜんぶぜんぶ受け止めてあげられるぐらい、あたしも強い人になりたいと思ったんだ。

考人が一歩、校門の方へ踏み出すまで。
あたしはずっと、考人の隣で、そんな空を眺めていた。
背後であたしたちを見つめている気配に、全く気づかずに……。
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