きっと消えない秋のせい

◆第四章 嘘つきアゲイン

「行ってきまーす!」

翌日、あたしはいつもよりも早めに起きて、急いで考人の家に向かった。
今日は一時間目と二時間目に体育の授業がある。
5年生クラス対抗バスケットボール大会の練習のためだ。
学校に着いたら、すぐに着替えて、体育館に向かわないといけない。
大会に出る考人はいつもより早く、学校に行く可能性がある。
急がないと、考人に置いていかれてしまうかもしれないもん。

「杏」

そう考えていたら、隣からあたしの呼ぶ声がした。
あたしははっとして勢いよく振り返る。

「……おはよう」
「おはよう、考人」

玄関前でばったりと出くわした考人は、今日も素っ気ない対応。
でも、あたしにとっては温かくて、見ているだけで幸せになる存在だ。

「今日は朝からバスケの練習があるんだよね」

わくわくする気持ちを押さえきれず、あたしは声を弾ませながら通学路を歩いた。
学校に着くまでの間に、あたしたちは昨日の件を踏まえながら話していく。

「考人、他のクラスって強いの?」
「分からないけど、多分、僕たちよりも強い人がいるかも」
「そっか。かなり手強そうだね」

あたしは空に目を向けて、考えるような仕草をした。

「考人は将来、なりたいものがある?」
「急に何を……」
「あたしは将来、なりたいものがあるから、そのために頑張っているの」

初耳ばかりの告白に、考人は驚きに目を見開いた。

「将来の夢? お天気キャスター?」
「それもあるけど、あたしにとって一番大事なことなの」
「大事なこと?」

考人の真剣な声が、胸に心地よく響いた。

「考人。ふたりだけの秘密だからね」

あたしはそう言うと、考人に近づいた。
一気にあたしの表情の輝きが増していく。

「あのね……」
「……ん?」

あたしは背伸びする。
そして、考人の耳元に顔を近づけて、内緒話をするように小声でささやいた。

「考人のおよめさん」

特別な告白。
考人だけに聞こえる声で応えると、あたしはえへへと含みのある視線を送った。
だけど……。
考人はそっぽを向くと、さっさと歩き始める。

「…………」
「あ。考人、待って……!」

あたしは慌てて考人の背中を追いかけた。
うー、いいもん!
今は……あたしの想いに応えてくれなくてもいい。
だって、考人は目を逸らしつつも、ほんのりと顔を赤くしていたから。
そんな考人の姿を見れただけで十分だもん。
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