きっと消えない秋のせい


学校の校門をくぐると、登校中の生徒の姿がちらほら見えてきた。
昇降口に入り、隣にいる考人のことを思う。
すると淡く優しい時間が流れて、じんわりと心に温かさが広がっていった。
考人はあたしの一番好きな人だから。
ひそかに心の中で願掛けする。

『お願い。これからもどうか、考人と一緒に楽しく過ごせますように』

そう願いながら、あたしは自分の下駄箱をあけた。
しかし、その瞬間、あっさりとその願いは打ち砕かれてしまうことになる。

「あれ?」

上履きの上。
下駄箱にはあまり相応しくない封筒が、ぽつんと置かれていたんだ。

わわっ、なにこれ?

焦ったあたしはこっそりと封筒を確認する。
差出人の名前はどこにも書かれていない。

「誰からだろう?」

中を確認すると、そこには一枚の便せんが入っている。
あたしは恐る恐る便せんを開いた。

『深瀬孝人と天宮結菜にこれ以上、関わるな』
 
そう――大きく文字が書かれていた。

「なに……これ?」

思わず、あたしの指が震える。
まるで警告みたい。
何だか嫌な予感しかしないんだけど。

「杏」

不意にぽつりと声が聞こえた。
驚いて振り返ると、心配そうな表情であたしを見ている孝人がそこにいたんだ。

「何かあった?」
「……孝人」

胸がぎゅっと熱くなる。
孝人の揺れる瞳に、否応なしにあたしの胸が高鳴っていく。
でも……。

『深瀬孝人と天宮結菜にこれ以上、関わるな』

その文字が容赦なく、あたしの胸を突き刺してくる。
怖い。
便せんをぎゅっとつかむ。
けど、一年前のことを思い出し、心臓の動きが激しくなる。

「下駄箱の中に手紙があって……『孝人と結菜にこれ以上、関わるな』って書かれていた……」

声が震える。
だけど、もう、あたしの言葉は止まらなかった。
だって、こんな嫌がらせの手紙なんかに負けたくなかったから。

「お願い、孝人……どこにも行かないで。また、離ればなれになるなんて嫌だよ……。あたし、孝人に傍にいてほしい……」

大切なものはあの事故以来、いつだって、その手をすり抜けていく。
だから――。
これ以上は失いたくはない。
失わないように全部、守りたいから。

「怖いの。もう二度と孝人を失いたくない……」

あたしは決して、孝人を見つめることをやめない。
だって、孝人は、あたしの世界のすべてだから……。
だからこそ、
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