きっと消えない秋のせい
「おはよー、考人。さっそく練習しようぜ」
「……おはよう、巧。相変わらず、バスケ一筋だな」
「おう! それなら本望だ!」

通谷くんは額の汗を拭って考人を見た。

かっこよくて真面目で、何事にも一生懸命な通谷くんはバスケ一筋だ。
だけど、運動神経いいし、きっと何でもそつなくこなすんだろうな。

大会に出る人たちが放つボールの音と足音だけが体育館に響く。
夢中になって、あたしは大会に出る人たちを目で追いかける。
大会に出る人たちが使っているゴールからは、男の子、女の子どちらも、ボールがリングに当たる音があまり聞こえない。
大会に出る人たちはみんな上手いというのは本当みたいだ。
正直、もう少し見ていたいという気持ちがあったけど……。
今は、あの手紙を書いた人物が誰なのか知りたかった。
あたしは改めて、孝人に目を向ける。

「……あっ」

孝人が視線を向ける先。
そこにジャージ姿で立っていたのは小林先生だった。

「お、来たな、深瀬。待っていたぞ」

考人を見るなり、小林先生は熱く声をかけてくる。
一方、考人は意を決したように、持っていた手紙を差し出した。

「……先生、おはようございます。単刀直入に言います。この手紙を書いたのは先生ですよね?」
「そうだ。ある人に頼まれてな」

小林先生は腕を組んで素直に白状した。
え!? そんなにあっさり?

「……誰に?」
「それは言えんな。『誰にも言ってはいけない』とお願いされているからな」
「お願いごと!」

小林先生のその言葉に、あたしは思わず反応する。

それって……誰かが先生にそうするようにお願いごとをしたってこと?
でも、誰がそんなお願いごとを――。
もしかして考人たちに、あの事故の『真実』を口止めしている人なのかな?

「とにかく、片岡。深瀬と天宮にこれ以上、関わってはだめだからな」

小林先生はそう言い捨てると、その場から立ち去ろうとする。

「先生、待ってー!!」
「ん?」

あたしは慌てて、小林先生の背中に思いきり叫んだ。
必死の呼びかけに、小林先生は怪訝そうに振り返る。
あたしはすーはーすーはーと深呼吸を繰り返した。
そして――。

『先生が、ここにいるみんなが、これからもあたしが考人と結菜のそばにいることを応援してくれますように!』

あたしは目をつぶり、心の中で強く強く願う。
すると、小林先生は肩を弾ませて興奮した様子で言った。

「片岡。すまん、すまん。さっきの言葉はなしな。これからも深瀬と天宮と仲良くしろよ」

小林先生は先程、口にした言葉と真逆の発言をする。
そのいざぎよい態度に、考人は毒気を抜かれたように肩を落としていた。
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