きっと消えない秋のせい


体育の授業が終わり、休み時間になる。
あたしたちはそろって教室に入った。
あたしと考人が席について、しばらくすると徐々にクラスメイトたちが入ってきて騒がしくなる。

「結菜、もうすぐ休み時間が終わっちゃうよ」
「体育の後の休み時間は、ほんとにあっという間ね」

やがて、結菜が仲のいい友達と一緒に教室に入ってくるのが見えた。
結菜は視線を向けないまま、あたしの席の前を通り過ぎようとする。
でも、その前に――。

「結菜、待って!」

あたしは勢いよく席を立つ。
そして、結菜の名前を呼び、強く腕をつかんだんだ。

「結菜、あのね……放課後、少し話がしたいの!」
「片岡さん。悪いけど、わたしはあなたと話したいことはないから」

結菜はそう言って、あたしの腕を振り払った。

わ、わわ!

あたしはこけそうになりながらもぐっ、とこらえる。
いつもならここで終わっちゃうけど、今日は絶対に負けないもん!

「あたしは話したいことがあるの! すごく大事な話なの!」

あたしは強い瞳で結菜を見る。
嫌われたとしても、酷いと思われたとしても、もう離ればなれになりたくなかったから。
でも、結菜は「邪魔」と言わんばかりの目で睨んでくる。

「だから、なに? わたしはこれから先も、あなたと関わりを持ちたくないと思ってる」
「――っ」

強い断言によって、あたしの後追いの言葉はさえぎられてしまう。
教室内にぴりっと張りつめた空気が流れる。
ただならぬ雰囲気に、登校してきたクラスメイトたちがちらちらとこちらをうかがっていた。

「……杏、大丈夫?」
「考人」

考人が心配そうに、あたしのもとに駆け寄ってきた。

いつだって、あたしの傍には考人がいてくれる。
だから、大丈夫だもん。

そう思ったら思わず、目の奥が熱くなってしまった。

「おーい、席につけー!」

しばらく沈黙が続いた後、チャイムが鳴る。
そして、小林先生が教室へ入ってきた。
それに合わせて、みんなは自分の席につくと。
やがて、授業が始まる。
でも、あたしは上の空でそれを聞いていた。
だって、結菜の気持ちが分からなかったから。

結菜は毎日、心の中でなにを思ってるんだろう。
教室でいつも口を開けて楽しそうに笑っている結菜。
でも、今の結菜の笑顔は、以前の結菜の笑顔とは違っていて。
まるで別人のようで、あたしの胸の奥から悲しみがこみ上げてきた。

あ、そうだ。
ちょっと迷ったけど、あたしはお願いごとに頼ることにした。
だって、このままだと結菜と話す機会がなくなっちゃうし。
それに心にある気持ちを全て吐き出して、明日を迎えたいから。

『お願い。ここにいるみんなが、これからもあたしが考人と結菜のそばにいることを応援してくれますように!』

あたしは目をつぶり、心の中で強く強く祈った。
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