きっと消えない秋のせい


放課後。
授業が終わって昇降口に向かう前に、あたしは渡り廊下の手前で結菜に声をかけた。

「結菜、待って! 話したいことが――」
「わたしは、あなたと話すことはないから」

あたしが言い終わるのも待たず、結菜は仲のいい友達と一緒に先に帰って行った。
渡り廊下にぽつりと残されたのは、あたしと考人の二人。
どちらも口を開かないから、妙な雰囲気があたしたちの間に満ちる。

「考人も……教えてはくれないんだよね……」

不自然に思えるほど長い沈黙の後、言葉を口にしたのはあたしが先だった。

「…………」

答えはなかなか返ってこなかった。
無言のまま、時間だけが過ぎる。

……お願い、考人。
あたしは、ここにいるよ。
考人のことが好きな、『あたし』がいるから。
だから、お願い。
一人で全てを抱え込まないで――。
考人の幸せが、あたしの幸せだから。
考人の苦しみを少しでも受け止めたいんだもん――。

沈黙が続くその間、あたしは強く強くそう願っていた。

「杏、ごめん……。話したら、杏が危険な目に遭うかもしれない。だから、話せない」
「……そっか」

ようやく返ってきた考人の声は、まるで不安という感情がそのまま言葉になっているみたいだった。
やっぱり、話してはくれない。
あたしの「もしかして」が確信に変わる。

「あのね、考人。いつか話せる時が来たら、本当のことを教えてほしいの。あの日の真実を……」

感情だけが先走るような、そんな不思議な感覚。
それを確かめるようにあたしは言った。

「……分かった。でも、絶対に無理はしないと約束して……」
「うん。考人、ありがとう」

その言い方が優しくて、真剣で。
考人が本当にあたしのことを心配してくれているのが分かったんだ。
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