きっと消えない秋のせい


5年生クラス対抗バスケットボール大会当日。
体育館の周りは、大会に出ない人たちで溢れている。
ときおり、体育館のあちらこちらから黄色い声援が飛ぶ。
そのほとんどが孝人たちの応援だ。
うーん。孝人たちの人気はあなどれない。

「よっしゃー!! 絶対に勝つぞー!!」

通谷くんは大会に出る人たちに囲まれて、太陽のような笑顔を振りまいている。
逆に孝人は相変わらずの不愛想な表情のまま、通谷くんたちを見ていた。
それらを横目で見ながら、あたしはきょろきょろと周囲を見回した。
――そろそろ来る頃だ。
あたしたちの最初の対戦は、隣のクラスの人たち。

「うわあっ!」

やがて、あたしの周りから歓声がわき上がる。
隣のクラスの人たちが体育館に入ってきたからだ。

「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

先生同士が握手して挨拶する中――。

「通谷巧ってどいつ?」
「お? 俺だけど」

とびきりかっこいい男の子が、興味津々に通谷くんに声をかけていた。
バスケがかなり得意な通谷くんは、他のクラスでも知られているようだ。

「ふーん、君が……」

男の子はボールを持ち、ゴールの前に立った。
半円を描いている白い線の前から、全身を使ってボールを放つ。
すると、くるくると回ったボールはそのまま音を立てずにネットに吸い込まれていった。

「俺は佐東(さとう)あきら。じゃ、今日はよろしく」

整った顔につやつやの黒い髪。
佐東くんはさわやかにそう言うと、まるで何事もなかったように去っていく。
そのまま体育館で、隣のクラスの人たちと合流してしゃべっているのが目に入る。

「なんだよ、あいつ」

通谷くんは不満そうだったけど、孝人は特に気にしていないみたいだった。
あたしたちが見守る中、いよいよ5年生クラス対抗バスケットボール大会が始まる。
あたしが見るのは、孝人たちが出る男の子たちの対戦だ。

ピーッ!!

試合開始を告げる笛の音が木霊した。
ボールが宙を舞う。
最初にボールを制したのは佐東くん。
クラスの男の子たちの守りをなんなく交わし、巧みなドリブルを見せながら攻めてくる。

「行かせるか!」

通谷くんも負けじと体を張る。
しかし、佐東くんは目にもとまらぬ速さで通谷くんをかわし、シュート体勢に入った。
クラスの男の子たちはシュートを打たせまいと必死に守る。
佐東くんはそれを冷静にかわし、シュートを放つ。
ボールはきれいな半円を描いて。
それが音もたてずにゴールネットをくぐりぬける。

「すごい……!」

その光景に、あたしは全身が泡立つ感覚を覚えた。
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