きっと消えない秋のせい
先制点は隣のクラス。
クラスの男の子たちと隣のクラスの男の子たちがコートの中を駆け回り、激しくぶつかり合う。
ボールを奪い合いながら、相手の隙をついてゴールへと運ぶ。
ドリブルの音が、観戦しているあたしたちの心に心地よいほどに響き渡る。

「みんな、頑張ってー!!」

互いに譲らない攻防に、あたしたちの声援にも一層、熱がこもっていた。
そんな中、抜きん出ていたのが――。

パスッ。

佐東くんは半円を描いている白い線から全身を使ってボールを放つ。
すると、くるくると回ったボールはそのまま音を立てずにゴールネットに吸い込まれた。

「また、ロングシュート。すげえ、あの4番」

またしても、佐東くんにロングシュートを決められてしまった。
観戦しているあたしたちも思わず、惹きつけられてしまうほどの華麗なテクニック。
それになにより、シュートがとても綺麗だと思った。

「ちくしょー。あいつ、うまい。絶対に何とかするぞ」

当然、通谷くんは不満爆発だ。

「……佐東あきら、手強いな」
「考える間もなく、あっという間に点を取られるし、あっという間にボールを取られるし。ボールを目で追っているだけで一杯一杯って感じだ」
「赤坂小に来る前は、クラブチームに入っていたらしいぜ」


そういえば、隣のクラスにバスケが上手い転校生がきたって噂になっていたっけ。
スピードでも敵わないし、テクニックでも敵わない。
クラスの男の子たちは実力差を痛感していた。

「なに言ってるんだよ、みんな。それじゃ勝てる試合も勝てないだろ!」
「分かっているけどさ……」

通谷くんの意見に、クラスの男の子たちは困り顔。
それでも、何かできることはないか。
いや、打つ手はあるはずだと。
クラスの男の子たちは真剣な眼差しで孝人と通谷くんを見つめる。

「深瀬、通谷。今、この場で、おまえたちの本気を見せてもいいんじゃねえか」

みんな、決して諦めていない。逆転のチャンスがあることを見抜いていたんだ。
孝人と通谷くんがまだ、本気を出し切っていないと――。
彼らなら、何とかしてくれると信じているんだ。

それに応えるように、孝人は熱くこぶしを上げる。

「当然、ここで終わりじゃねーよな! よーし、巧、反撃開始だぜ!」
「そうこなくちゃな、孝人! 俺と考人のコンビネーションで最高のプレーをぶつけてやるぜー!!」

孝人の意図が伝わったのか、通谷くんは右手を上げてパシンっと合わせた。
孝人はあの事故以来、本気のプレーからすっかり遠ざかっていた。
でも……。
以前、通谷くんと一緒にバスケをしていたあの日。
コートの中をがむしゃらに駆け回っていた考人の姿を思い出す。
今の考人はあの日と同じ目をしている。

久しぶりに孝人の本領発揮の瞬間が見れるかも……!

否応なしにあたしの胸が高鳴っていく。
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