きっと消えない秋のせい



その不可解な事故は何の前触れもなく、突然起こったんだ。
その事故に巻き込まれた人たちは、まるで人が変わったみたいに性格が変わっていた。
今までの記憶を失っていたり、意味不明なことを話したり、苦手なことや教わったこともないことを簡単にやってしまう。
そして、知らないはずの人のことを知っていたり、行ったことがないはずの場所のことを知っていたんだ。

テレビや新聞に大々的に取り上げられたほどの大事故。
そのうえ、その事故に巻き込まれた人たちにそんな奇妙な現象が起こったんだもん。
当然、大騒ぎになったんだ。
その事故をきっかけに、家族や友達、仲のいい人が、まるで知らない人のように性格が変わってしまったから。

うんうん。全くあり得ない話だよね。
テレビに出ていた人たちは事故のこと、いろいろと言っていたけど。
どれだけ調べてみても、その原因も、解決法も、この現象が何であるのかすらも誰も分からなかったんだ。
結局できたのは、変わってしまったことを認めて、受け入れることだけだった。
でも、それじゃ、何も変わらないもん!
あたしはそう思って、ここまで考人を追いかけてきたんだ。

「ね、今から帰るんでしょ? 一緒に帰ろう」

考人は隠すことなく大きなため息を吐いた。そのまま、何も言わずに歩き出してしまう。
あたしは負けないという気持ちで後を追いかけた。

「あのね、考人のこと、考人のお母さんも心配しているの。たまに、一人でふらりとどこかに出かけてしまうことがあるんでしょ」
「僕が何をしようと、杏には関係ないだろ」
「関係ないとか、そんなの……」

あたしはにごすようにして口をつぐんだ。
その隙に考人は踵を返し、再び昇降口に向かって歩き出す。

「僕のことはほっといてくれよ。じゃあ」
「ちょっと!」

背中越しに声をかける。
けど、考人はもう足は止めることなく、下駄箱へと向かう。

そっちがその気なら……!

下駄箱で靴をはきかえている考人の後ろから、あたしはうりゃと抱きついた。
考人はよろけるのをぐっと堪えて、あたしを受け止める。

「さあ、一緒に帰ろう!」
「ふーん」

離れてそう告げると、考人は探るようにあたしを見た。
自分のペースを乱されて、ちょっとイライラしているみたい。
あたしは逆にしてやったりという顔で笑った。
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