きっと消えない秋のせい
「片岡さん……」

結菜が――あすかみのり先生が驚いた表情であたしを見つめる。

「…………なんで、ここにいるのよ」

あすかみのり先生は恐怖に顔をゆがめていた。
まるで知られたくなかったことを見られたような怯え方。
恐れていたことが現実になって怯えているような雰囲気だ。

やっぱり、今の結菜の中身は別の人――あすかみのり先生なんだ……。
結菜はもういないんだ……。

そう思うと、底知れぬ悲しみが襲いかかってくる。
涙がぼろぼろと溢れてくる。
だって、結菜の――あすかみのり先生の驚いた表情。
それはどんな言葉よりも雄弁な真実だったから。

「……違う。そんなの違う!」

気がつけば、あたしはそう叫んでいた。
いてもたってもいられなくて、必死にその場を離れる。
でも、走れば走るほど、振り切りたい現実は鮮明になっていく。

テレビや新聞に大々的に取り上げられたほどの大事故だったにも関わらず。
その事故で亡くなった人がいなかったという不可解な事実。
でも、実際は……結菜はあの事故で亡くなっていた。

結菜はもういない。
親友がどこか遠くに手の届かない場所に行った。
――そんな悪夢だと思いたい現実が襲いかかってくる。

「嘘だー! ぜんぶ嘘だー!」

押し寄せる絶望感に、涙は溢れて止まらなかった。
あたしは大急ぎで階段を駆け下りると、転がるように病院を飛び出した。
汗が出るほど、必死に走って。
それでも身体は不思議なほど、冷たいままで。

学校が見えてきた頃には、真っ暗な世界にいるような寂しさに包まれていたんだ。
それでも、あたしは息を切らしながら歩き続ける。
気づけば、家の近くの公園にたどり着いていた。
どうやって、公園まで来たのか分からない。

「はあはあ……」

力が抜けてベンチに座り込んだ。
涙で声を枯らし、絶望に打ちひしがれる。

怖い……。
今まで信じてきたことが覆されるような現実が怖い……。

恐怖の波が迫りくる。
時間が凍りついたと錯覚するくらい、あたしにはこの時が長く感じたんだ。
どれくらい、時間が経っただろうか。
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