きっと消えない秋のせい
「ほら! 考人、一緒に帰ろう!」

考人は一瞬、驚いて立ち止まる。
けれど、すぐに気づかないふりをして、早足で歩き出してしまった。
ううっ……。何か、しゃくにさわる。
靴をはきかえて、あたしは急いで追いかけた。

「考人!」

考人は振り向かずにずんずんと歩き続けた。

「考人、待って!」

あたしは考人の腕を捕まえて引き止めようとする。
でも、考人はあたしの顔も見ずに、手を振りほどくようにして歩き続けた。

「お願い、考人……っ!」

あたしはすかさず、考人の前に回り込んだ。
思わずぶつかり、倒れそうになってしまうんだけど。

「……あ」

そんなあたしの腕を、考人はとっさにつかんでくれた。
でも、考人はすぐにその手を離し……走り出す。
あっ、ずるい!
必死に追いかけるものの、その差はひらいていく一方だ。
ぐっ、速い。あたしの足じゃ追いつけない。
こうなったら――。

『お願い! 考人、止まって!』

あたしは心の中でそう願った。
けど……わーん。
すたすた。考人はそのまま走っていっちゃったんだよー。
どうしてかな?
昔から考人にだけは、どんなお願いごとをしても効かなかったんだよね。
何かお願いごとが効かない理由でもあるのかな?
うーん、分からない。
もう、こうなったら――。

『誰か、考人を止めて!』

あたしは心の中で強く強く願う。
すると、近くでサイレンが鳴り響いたんだ。

「そこの少年、今すぐ止まりなさい!」

数台のパトカーがやって来て、考人をあっという間に囲んでしまった。
近くで散歩していた犬さんも、考人に『止まれ』と吠える。

「ちょっと待ってよ!」

その隙にあたしは再び、前に回り込む。
すると、考人はようやく足を止めてくれたんだ。

「……勝手にすれば」
「うん。勝手にする!」

わーい! あたしたちの大勝利!
警察の人たちに見送られながら、あたしと考人は並んで歩き出す。
でもね、あの事故以来、考人があたしに話しかけてくることはあまりないんだよね。
それでも、今日も考人と話せることが嬉しくて、あたしの胸は音を立てて高鳴った。

「あら、杏ちゃん。考人と一緒なのね」

考人の家に着くと、考人のお母さんが優しく出迎えてくれたんだ。

「お邪魔しまーす」
「さあ、入って」

あたしが玄関に入ると、考人のお母さんは歓迎してくれた。
家が隣のあたしと考人は、昔から家族ぐるみの付き合いが続いている。
靴を脱いでそろえると、昔の感覚が蘇る。

考人の家。
幼稚園の頃から、あたしは自分の家と同じくらい、この家にいりびたっていたんだ。

『考人、いる? あそぼー』

靴を脱いでそろえると、あたしは待ちきれないまま、二階の考人の部屋に走り出していた。
あの頃を思い出して思わず、階段に目が行く。
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