きっと消えない秋のせい
「考人くん。杏のこと、お願いね」

お母さんがそう言って去っていくと、あたしの身体に緊張が走るのが分かった。

「…………」
「…………」

部屋にぽつりと残されたのは、あたしと朔夜くんの二人。
どちらも口を開かないから、妙な雰囲気があたしたちの間に満ちる。

「……杏、ずっと大切なことを黙っていてごめん。そのせいで君を傷つけてしまった」

不自然に思えるほど長い沈黙の後、言葉を口にしたのは朔夜くんが先だった。

「……教えて。どうして、考人の中身が朔夜くんになっているの……?」

悩んだ末に、あたしはあの時、口にできなかった質問をする。
どうしても追い出せないもやもやが胸の中に残っていたから。

「僕も、どうしてこうなったのかは詳しくは分からない。ただ、説明されただけだから……」
「説明……」

あたしは呆然としたまま、朔夜くんを見た。

「もう、気づいているかもしれないけど、あの事故で亡くなった人たちの身体を借りている僕たちも既に亡くなっている」
「朔夜くんたちも亡くなっているの……」

あたしが目を瞬かせると、朔夜くんは苦しげにため息をついた。

「僕はあの事故が起きた日、症状が悪化して死んだはずなんだ。でも、気がついたら、考人になっていた」
「……考人に?」
「多分、他の人たちも同じだと思う」

その言葉に、あたしは愕然とした。

「……じゃあ、ほんとに考人も結菜も、あの事故で亡くなってしまったの?」

あたしがすがるように見ると、朔夜くんは悲しげに目を伏せる。

「天宮さんは亡くなっていると思う。他の人も……。でも、考人だけは少し違う……」
「考人だけは……?」

あたしはびっくりして問いかける。
だって、考人だけは少し違うって。
それって一体――。
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