きっと消えない秋のせい
久しぶりに学校に登校すると、通谷くんと高柳さんたちは嬉しそうに声をかけてくれたんだけど。
クラスの空気は何となくそわそわと落ち着かなかった。

みんな、どうしたんだろう?

あたしは目の前で起こっていることが理解できずにいた。
波乱の予感がしたけど、とりあえず自分の席についたんだ。
結菜は――あすかみのり先生はいない。
ずっと欠席みたいだ。
あたしにあの事故の真実を知られたからだろうか。

「……杏」

朔夜くんはチラっとあたしを見ると、口元に人差し指を当てる。

昨日、話したことは三人だけの秘密だよ。

そんなふうに言われている気がしたから、思わず顔がかあっーと熱くなる。

三人……。つまり、あたしと考人と朔夜くんだけの秘密ってことで。

ほんとにあの事故の真実を知ってから、いろんなことがあった。
いっぱいいっぱいあって、まだ大混乱している。
でも、朔夜くんの澄んだ眼差しを見ると、ふと思い出す。
あの事故の真実を知った日、朔夜くんが『杏は、僕にとって何よりも希望だった』って言った時のこと。
これって、まるで告白みたいだよね。
それとも、あたしの思い違いなのかな。

うー。分からない。分からないけど……。

朔夜くんを見ていると、心の中がぽっと温かくなった。
だけど――あたしの一番好きな人は考人で。
でも、今の考人は考人でもあり、朔夜くんでもあるから。
わーん。何だか、こんがらがってきちゃった。

「ううっ……」

その時、朔夜くんの視線がこちらを向きかけた気がして、あたしは慌てて目をそらす。

「ほら、席に戻れ!」

担任の小林先生が入ってくると、みんなが慌てて席につく。
やがて、一時間目の授業が始まったけど、あたしの心はどこか上の空だった。
あたしの一番好きな人は考人だ。
けれど、なぜだろう。
朔夜くんの寂しそうな顔が、まぶたの裏にちらついて気になって仕方なかったんだ。
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