きっと消えない秋のせい
「よーし、それじゃ、みんな頼むぞ!」

意志を必死に固めているうちに、小林先生は説明を終えたみたい。
日直が号令をかけた後、みんなが一斉にあたしの方を振り向いた。

ああああ、嫌な予感!

いたまれなくなって、あたしは教室からすぐに脱出しようと思ったんだけど。

「――あ、いた!」

他のクラスの人たちの鋭い声が、教室の入口から聞こえてきたんだ。
逃げ場を失った瞬間。

「杏、行こう」
「……え?」

不意に飛んできた言葉に、あたしはドキッと目を開く。
朔夜くんがあたしの手を引っ張って駆け出したんだ。

「あ、ちょっと!」
「おい! 逃げられたぞ!」

あたしと朔夜くんはランドセルを背に、他のクラスの人たちの間をすり抜けて教室から飛び出した。

「みんな、片岡さんはあっちよ!」
「早く早く、逃げられちゃう!」

教室から出ても、後ろから大勢の人たちが追いかけてくる声が聞こえる。

わわっ!!
全学年参加の鬼ごっこって……ほんとなんだー!!

『お願い。みんなが、あたしを追いかけるのを止めてくれますように!』

あたしは心の中で必死に強く強く祈った。
でも、足を止めたのは先頭を走っていた人たちだけだった。

わーん。あたしのお願いごとじゃ、近くにいる人たちしか戻せないよ!
でもでも……!

「……って、あれ? なんで俺、片岡を必死に追いかけていたんだ?」

先頭を走っていた通谷くんが不思議そうに目を白黒させている。
そう――、通谷くんたちは元に戻すことができたんだ。
そんな通谷くんに対して、朔夜くんは声をかけた。

「……巧。みんなを何とかして引き止めてほしい!」
「引き止めろ……って、うわああーー!!」

通谷くんは絶叫する。
みんなが通谷くんたちめがけて、一斉に押しかけていたからだ。

「おい! 考人、説明しろ!」
「……ごめん。逃げ切ってから説明する」
「絶対だからなーー!!」

通谷くんの悲鳴に、朔夜くんは手を上げて応える。

「……杏、このまま、学校の外に出よう」
「学校の外に?」

朔夜くんはあたしの手をつかんだまま、加速した。
校舎裏を一気に走り抜けて、グラウンドを通りすぎて、渡り廊下を突き進んでいく。
それでも、みんなはざわざわと追いかけてくる。

「杏、つかまって……」
「うん」

目の前に差し出された朔夜くんの手。
その手をつかみ、塀をよじのぼった。
そのまま学校の外を出て、住宅街をすり抜けて、歩道橋を駆け上がっていく。
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