きっと消えない秋のせい


様々な苦難を乗り越えて。
あたしたちがようやく院長室にたどり着いたのは一時間後のことだった。
はあはあ。めちゃくちゃ時間がかかっちゃったよー。

「ここに院長さんが……」

あたしは恐る恐る院長室のドアを開ける。
そして、その部屋に足を踏み入れた瞬間……。

ガシャアーン!!

何故か、天井から檻が落ちてきたんだ!!
うわああ!! どうしよう!!
いきなり閉じ込められたよ!!
どうやら、あたしたちの行動パターンはぜんぶお見通しだったみたい。

『片岡杏。おまえには、あの事故の真実を忘れてもらわなくてはいけない』

唐突な男の人の声。
はっとして、その声の出どころを探したけど。
でも、そこにはウサギのぬいぐるみがぽつんと置かれているだけだった。
どういうこと?

『申し訳ないが、ぬいぐるみを通して話をさせてもらっている』

わわっ。声は、ウサギのぬいぐるみから聞こえるみたい。
めちゃくちゃ動揺していると、朔夜くんはぽつりとつぶやいた。

「あ……院長さんの声……」
「えっ? この人が院長さんなの?」

驚きのあまり、あたしはポカンとする。
でも、それには答えずに。
熱にうなされたように、院長さんはしゃべり続けた。
あの事故の真実の先を――。

『あの事故は本来、誰も助からなかったはずだった。普通に全員が死ぬはずだった。だが、ちょっとした事故が起きてしまってな』
「事故?」

あたしはその言葉に疑問符を浮かべる。

『いつものように魂を狩っていたあの時、この病院で亡くなった人間の魂が何故か、あの事故で亡くなった人間の身体に入り込んでしまったんだ』
「……それって、抜け殻になった身体に、本当は死ぬはずだった僕たちの魂が入り込んでしまったってこと?」

朔夜くんの淡々とした――でも、痛みの染みこんだ声が耳に届いた。

『そうだ。本来、あの日全員、死ぬ運命だった。だから、私は慌てた。あの事故で亡くなった人間の身体から、なんとかして魂を引き離そうとした。だが、あまりにもしっかりと絡みついていたから引き離せなかったんだ』
「引き離せなかったんだ」

あたしはその言葉を反芻する。
すると痛いところを突かれたのか、ウサギのぬいぐるみが頭をかいて付け加える。

『仕方がないので、この病院で亡くなった人間の魂を、あの事故で亡くなった人間の身体の中に残すことにした』

それってつまり。
あの日、死ぬ運命だった朔夜くんたちの魂を、考人たちの身体の中に残したってこと?
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