きっと消えない秋のせい
『だが、さすがにこのままにはしておけなかった。事実が発覚すれば、混乱が生じる。考えた結果、私はこの病院の院長になり、この病院で亡くなった人間とその家族のみ、あの事故の真実を伝えることにした』

うわああ!! 怒涛の展開!!
どうしよう。状況の変化がめまぐるしくてついていけない。
一気に全てを打ち明けられて、頭が追いつかないのかもしれない。

「……院長さんにとって、ややこしい状況になったってことかも」

朔夜くんは少し困惑した顔で言った。
うん、分かるよ。その気持ち、すごく分かる。
あたしも困惑だ。
困惑しかない。

「朔夜くん。院長さんって、ほんとに何者なのかな。話している内容が、まるで神様みたい」
「……分からないけど、もしかしたらそれに近い存在なのかもしれない」

答えの出ない疑問に、あたしと朔夜くんが頭を悩ませていると。
ウサギのぬいぐるみは立ち上がって、あたしたちにぺこりとおじぎをした。

『自己紹介が遅れたな。私は死神。生命の死を司る神だ』

え……死神?
院長さんって、死神なの?
あたしは鉄格子にくっつくほど、前のめりになる。

「え……死神?」

あ……。あたしの心の声が、朔夜くんの声と重なったみたい。

『私のお仕事は魂管理。死んだ人間の魂を安全に管理することだ』

院長さん……死神さんがコホンと咳をする。

死神。

うーん。そんなの信じられるわけないけど、ウサギのぬいぐるみを動かしたり、話したりするし。
どうやら、ほんとのことみたい。
恐らく、みんなを操ったり、大雨を降らしたのも院長さん……ううん、死神さんの仕業だと思う。
状況がうまく理解できないあたしに。

『片岡杏。おまえには、あの事故の真実を忘れてもらわなくてはいけない』

死神さんは改めて、宣言した。

『あの事故の真実は、この病院で亡くなった人間とその家族のみ、知らせるつもりだった。だが、おまえはこれ以上関わるなと警告したにも関わず、あの事故の真実にたどり着いてしまった』
「つまり、それって、死神さんが今まであたしと朔夜くんたちを引き離そうとしていたってこと?」
『そうだ』

まるで断言しているような、揺るぎない答えだった。
それは、今まであった奇妙な騒動は死神さんの仕業ってことで。

「どうして?」
『あの事故の真実が漏れるのを避けるためだ。おまえが持っているお願いごとの力は、私にとっても危険な代物だからな。だから、この町の人間たちを操って、ここまで招き寄せた。慎重に事を運びたかったからな』

当たり前のように言われた言葉に面食らう。
でも……。
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